なるほど告知欄じゃねーの

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ワイに3chのコマンドを教えるスレ (1001)

1 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 09:51:59.71 ID:RhvrsNrc1
例えばライフタイムってなんや
※追記 2023/01/28(土) 10:05:21.442
※バルサン(未認証時書込禁止)
※バルサン解除
※バルサン(未認証時書込禁止)
※自演防止@jien
BBS_PROXY_CHECK=feature
BBS_JP_CHECK=1=

952 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:01.11 ID:cd6159badB-5692-5f66
イッチこれしてみて

!SETTING:BBS_PROXY_CHECK:feature
>>1

953 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:03.06 ID:32173e10M5-3f7b-1851
>>928
なんとかJP=1なんやけど今調べてる

954 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:06.41 ID:1270ae0fa1-74b3-f7a8
>>950
暇じゃなかったらこんな無価値なことしないぞ

955 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:54.83 ID:3d49bd65d0-9485-d7fc
ここいらがいいだろうと船頭は船をとめて、錨いかりを卸した。幾尋いくひろあるかねと赤シャツが聞くと、六尋むひろぐらいだと云う。六尋ぐらいじゃ鯛たいはむずかしいなと、赤シャツは糸を海へなげ込んだ。大将鯛を釣る気と見える、豪胆ごうたんなものだ。野だは、なに教頭のお手際じゃかかりますよ。それになぎですからとお世辞を云いながら、これも糸を繰くり出して投げ入れる。何だか先に錘おもりのような鉛なまりがぶら下がってるだけだ。浮うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。おれには到底とうてい出来ないと見ていると、さあ君もやりたまえ糸はありますかと聞く。糸はあまるほどあるが、浮がありませんと云ったら、浮がなくっちゃ釣が出来ないのは素人しろうとですよ。こうしてね、糸が水底みずそこへついた時分に、船縁ふなべりの所で人指しゆびで呼吸をはかるんです、食うとすぐ手に答える。――そらきた、と先生急に糸をたぐり始めるから、何かかかったと思ったら何にもかからない、餌えがなくなってたばかりだ。いい気味きびだ。教頭、残念な事をしましたね、今のはたしかに大ものに違いなかったんですが、どうも教頭のお手際でさえ逃にげられちゃ、今日は油断ができませんよ。しかし逃げられても何ですね。浮と睨にらめくらをしている連中よりはましですね。ちょうど歯どめがなくっちゃ自転車へ乗れないのと同程度ですからねと野だは妙みような事ばかり喋舌しゃべる。よっぽど撲なぐりつけてやろうかと思った。おれだって人間だ、教頭ひとりで借り切った海じゃあるまいし。広い所だ。鰹かつおの一匹ぐらい義理にだって、かかってくれるだろうと、どぼんと錘と糸を抛ほうり込んでいい加減に指の先であやつっていた。
 しばらくすると、何だかぴくぴくと糸にあたるものがある。おれは考えた。こいつは魚に相違ない。生きてるものでなくっちゃ、こうぴくつく訳がない。しめた、釣れたとぐいぐい手繰たぐり寄せた。おや釣れましたかね、後世恐おそるべしだと野だがひやかすうち、糸はもう大概手繰り込んでただ五尺ばかりほどしか、水に浸ついておらん。船縁から覗のぞいてみたら、金魚のような縞しまのある魚が糸にくっついて、右左へ漾ただよいながら、手に応じて浮き上がってくる。面白い。水際から上げるとき、ぽちゃりと跳はねたから、おれの顔は潮水だらけになった。ようやくつらまえて、針をとろうとするがなかなか取れない。捕つらまえた手はぬるぬるする。大いに気味がわるい。面倒だから糸を振ふって胴どうの間まへ擲たたきつけたら、すぐ死んでしまった。赤シャツと野だは驚ろいて見ている。おれは海の中で手をざぶざぶと洗って、鼻の先へあてがってみた。まだ腥臭なまぐさい。もう懲こり懲ごりだ。何が釣れたって魚は握にぎりたくない。魚も握られたくなかろう。そうそう糸を捲いてしまった。
 一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。ゴルキが露西亜の文学者で、丸木が芝しばの写真師で、米のなる木が命の親だろう。一体この赤シャツはわるい癖くせだ。誰だれを捕つらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。云いうならフランクリンの自伝だとかプッシング、ツー、ゼ、フロントだとか、おれでも知ってる名を使うがいい。赤シャツは時々帝国文学とかいう真赤まっかな雑誌を学校へ持って来て難有ありがたそうに読んでいる。山嵐やまあらしに聞いてみたら、赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。帝国文学も罪な雑誌だ。
 それから赤シャツと野だは一生懸命いっしょうけんめいに釣っていたが、約一時間ばかりのうちに二人ふたりで十五六上げた。可笑おかしい事に釣れるのも、釣れるのも、みんなゴルキばかりだ。鯛なんて薬にしたくってもありゃしない。今日は露西亜文学の大当りだと赤シャツが野だに話している。あなたの手腕しゅわんでゴルキなんですから、私わたしなんぞがゴルキなのは仕方がありません。当り前ですなと野だが答えている。船頭に聞くとこの小魚は骨が多くって、まずくって、とても食えないんだそうだ。ただ肥料こやしには出来るそうだ。赤シャツと野だは一生懸命に肥料を釣っているんだ。気の毒の至りだ。おれは一匹ぴきで懲こりたから、胴の間へ仰向あおむけになって、さっきから大空を眺めていた。釣をするよりこの方がよっぽど洒落しゃれている。
 すると二人は小声で何か話し始めた。おれにはよく聞きこえない、また聞きたくもない。おれは空を見ながら清きよの事を考えている。金があって、清をつれて、こんな奇麗きれいな所へ遊びに来たらさぞ愉快だろう。いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。清は皺苦茶しわくちゃだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥はずかしい心持ちはしない。野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣りょううんかくへのろうが、到底寄り付けたものじゃない。おれが教頭で、赤シャツがおれだったら、やっぱりおれにへけつけお世辞を使って赤シャツを冷ひやかすに違いない。江戸っ子は軽薄けいはくだと云うがなるほどこんなものが田舎巡いなかまわりをして、私わたしは江戸っ子でげすと繰り返していたら、軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄の事だと田舎者が思うに極まってる。こんな事を考えていると、何だか二人がくすくす笑い出した。笑い声の間に何か云うが途切とぎれ途切れでとんと要領を得ない。
「え? どうだか……」「……全くです……知らないんですから……罪ですね」「まさか……」「バッタを……本当ですよ」
 おれは外の言葉には耳を傾かたむけなかったが、バッタと云う野だの語ことばを聴きいた時は、思わずきっとなった。野だは何のためかバッタと云う言葉だけことさら力を入れて、明瞭めいりょうにおれの耳にはいるようにして、そのあとをわざとぼかしてしまった。おれは動かないでやはり聞いていた。
「また例の堀田ほったが……」「そうかも知れない……」「天麩羅てんぷら……ハハハハハ」「……煽動せんどうして……」「団子だんごも?」
 言葉はかように途切れ途切れであるけれども、バッタだの天麩羅だの、団子だのというところをもって推し測ってみると、何でもおれのことについて内所話ないしょばなしをしているに相違ない。話すならもっと大きな声で話すがいい、また内所話をするくらいなら、おれなんか誘わなければいい。いけ好かない連中だ。バッタだろうが雪踏せっただろうが、非はおれにある事じゃない。校長がひとまずあずけろと云ったから、狸たぬきの顔にめんじてただ今のところは控ひかえているんだ。野だの癖に入らぬ批評をしやがる。毛筆けふででもしゃぶって引っ込んでるがいい。おれの事は、遅おそかれ早かれ、おれ一人で片付けてみせるから、差支さしつかえはないが、また例の堀田がとか煽動してとか云う文句が気にかかる。堀田がおれを煽動して騒動そうどうを大きくしたと云う意味なのか、あるいは堀田が生徒を煽動しておれをいじめたと云うのか方角がわからない。青空を見ていると、日の光がだんだん弱って来て、少しはひやりとする風が吹き出した。線香せんこうの烟けむりのような雲が、透すき徹とおる底の上を静かに伸のして行ったと思ったら、いつしか底の奥おくに流れ込んで、うすくもやを掛かけたようになった。
 もう帰ろうかと赤シャツが思い出したように云うと、ええちょうど時分ですね。今夜はマドンナの君にお逢あいですかと野だが云う。赤シャツは馬鹿ばかあ云っちゃいけない、間違いになると、船縁に身を倚もたした奴やつを、少し起き直る。エヘヘヘヘ大丈夫ですよ。聞いたって……と野だが振り返った時、おれは皿さらのような眼めを野だの頭の上へまともに浴びせ掛けてやった。野だはまぼしそうに引っ繰り返って、や、こいつは降参だと首を縮めて、頭を掻かいた。何という猪口才ちょこざいだろう。
 船は静かな海を岸へ漕こぎ戻もどる。君釣つりはあまり好きでないと見えますねと赤シャツが聞くから、ええ寝ねていて空を見る方がいいですと答えて、吸いかけた巻烟草まきたばこを海の中へたたき込んだら、ジュと音がして艪ろの足で掻き分けられた浪なみの上を揺ゆられながら漾ただよっていった。「君が来たんで生徒も大いに喜んでいるから、奮発ふんぱつしてやってくれたまえ」と今度は釣にはまるで縁故えんこもない事を云い出した。「あんまり喜んでもいないでしょう」「いえ、お世辞じゃない。全く喜んでいるんです、ね、吉川君」「喜んでるどころじゃない。大騒おおさわぎです」と野だはにやにやと笑った。こいつの云う事は一々癪しゃくに障さわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」と云ってやった。実際おれは免職めんしょくになるか、寄宿生をことごとくあやまらせるか、どっちか一つにする了見でいた。「そう云っちゃ、取りつきどころもないが――実は僕も教頭として君のためを思うから云うんだが、わるく取っちゃ困る」「教頭は全く君に好意を持ってるんですよ。僕も及およばずながら、同じ江戸っ子だから、なるべく長くご在校を願って、お互たがいに力になろうと思って、これでも蔭ながら尽力じんりょくしているんですよ」と野だが人間並なみの事を云った。野だのお世話になるくらいなら首を縊くくって死んじまわあ。
「それでね、生徒は君の来たのを大変歓迎かんげいしているんだが、そこにはいろいろな事情があってね。君も腹の立つ事もあるだろうが、ここが我慢がまんだと思って、辛防しんぼうしてくれたまえ。決して君のためにならないような事はしないから」

956 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:11.38 ID:a31355b115-de3f-be9e
今度faxの家凸るか
今度こそ徹底的に追い込んで自殺させてやるわ
こんど鉄道撮影会来たらリンチしてやっからな

957 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:16.78 ID:169531cb14-db04-06c2
死ぬほど遅くて草

958 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:55.58 ID:1587379c17-c9b4-b5ca
野だは大嫌だいきらいだ。こんな奴やつは沢庵石たくあんいしをつけて海の底へ沈しずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だめだ。惚ほれるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云いう。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐やまあらしがよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪わるい教師なら、早く免職めんしょくさしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖くせに意気地いくじのないもんだ。蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極きまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違ちがう。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。今に火事が氷って、石が豆腐とうふになるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵たいていの事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻まわりくどい事をしないでも、じかにおれを捕つらまえて喧嘩けんかを吹き懸かけりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
 ここへ来た時第一番に氷水を奢おごったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯ぱいしか飲まなかったから一銭五厘りんしか払はらわしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師さぎしの恩になっては、死ぬまで心持ちがよくない。あした学校へ行ったら、一銭五厘返しておこう。おれは清きよから三円借りている。その三円は五年経たった今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。清は今に返すだろうなどと、かりそめにもおれの懐中かいちゅうをあてにしてはいない。おれも今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほど清の心を疑ぐるようなもので、清の美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのは清を踏ふみつけるのじゃない、清をおれの片破かたわれと思うからだ。清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人から恵めぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有ありがたいと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊たっといお礼と思わなければならない。
 おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつな振舞ふるまいをするとは怪けしからん野郎やろうだ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいて喧嘩をしてやろう。
 おれはここまで考えたら、眠ねむくなったからぐうぐう寝ねてしまった。あくる日は思う仔細しさいがあるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本竪たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。おれは、控所ひかえじょへはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握にぎって来た。おれは膏あぶらっ手だから、開けてみると一銭五厘が汗あせをかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑めいわくでしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱ひじを突ついて、あの盤台面ばんだいづらをおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰だれにも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎なぞをかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬しのぎを削けずってる真中まんなかへ出て堂々とおれの肩かたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
 おれは教頭に向むかって、まだ誰にも話さないが、これから山嵐と談判するつもりだと云ったら、赤シャツは大いに狼狽ろうばいして、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕ぼくは堀田ほった君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は学校に騒動そうどうを起すつもりで来たんじゃなかろうと妙みょうに常識をはずれた質問をするから、当あたり前まえです、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、学校の方でも困るでしょうと云った。すると赤シャツはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼いらいに及およぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなにあなたが迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念を押おした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。しかもこのおれを疑ぐってる。憚はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
 ところへ両隣りょうどなりの机の所有主も出校したんで、赤シャツは早々自分の席へ帰って行った。赤シャツは歩あるき方から気取ってる。部屋の中を往来するのでも、音を立てないように靴くつの底をそっと落おとす。音を立てないであるくのが自慢じまんになるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒どろぼうの稽古けいこじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭らっぱがなった。山嵐はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛でかけた。
 授業の都合つごうで一時間目は少し後おくれて、控所へ帰ったら、ほかの教師はみんな机を控えて話をしている。山嵐もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻ちこくしたんだ。おれの顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰金ばっきんを出したまえと云った。おれは机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達せんだって通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上に掃はき返した。おや山嵐の癖くせにどこまでも奢る気だな。
「冗談じゃない本当だ。おれは君に氷水を奢られる因縁いんえんがないから、出すんだ。取らない法があるか」
「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」
「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」
 山嵐は冷然とおれの顔を見てふんと云った。赤シャツの依頼がなければ、ここで山嵐の卑劣ひれつをあばいて大喧嘩をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤まっかになってるのにふんという理窟りくつがあるものか。
「氷水の代は受け取るから、下宿は出てくれ」
「一銭五厘受け取ればそれでいい。下宿を出ようが出まいがおれの勝手だ」
「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主ていしゅが来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝けさあすこへ寄って詳くわしい話を聞いてきたんだ」
 おれには山嵐の云う事が何の意味だか分らない。
「亭主が君に何を話したんだか、おれが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持て余あまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭ふかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
「おれが、いつ下宿の女房に足を拭かせた」
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一幅ぷく売りゃ、すぐ浮ういてくるって云ってたぜ」

959 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:56.26 ID:15efc8f807-312f-b7df
八日目には七時頃から下宿を出て、まずゆるりと湯に入って、それから町で鶏卵けいらんを八つ買った。これは下宿の婆さんの芋責いもぜめに応ずる策である。その玉子を四つずつ左右の袂たもとへ入れて、例の赤手拭あかてぬぐいを肩かたへ乗せて、懐手ふところでをしながら、枡屋ますやの楷子段はしごだんを登って山嵐の座敷ざしきの障子をあけると、おい有望有望と韋駄天いだてんのような顔は急に活気を呈ていした。昨夜ゆうべまでは少し塞ふさぎの気味で、はたで見ているおれさえ、陰気臭いんきくさいと思ったくらいだが、この顔色を見たら、おれも急にうれしくなって、何も聞かない先から、愉快ゆかい愉快と云った。
「今夜七時半頃あの小鈴こすずと云う芸者が角屋へはいった」
「赤シャツといっしょか」
「いいや」
「それじゃ駄目だ」
「芸者は二人づれだが、――どうも有望らしい」
「どうして」
「どうしてって、ああ云う狡ずるい奴だから、芸者を先へよこして、後から忍んでくるかも知れない」
「そうかも知れない。もう九時だろう」
「今九時十二分ばかりだ」と帯の間からニッケル製の時計を出して見ながら云ったが「おい洋燈らんぷを消せ、障子へ二つ坊主頭が写ってはおかしい。狐きつねはすぐ疑ぐるから」
 おれは一貫張いっかんばりの机の上にあった置き洋燈らんぷをふっと吹きけした。星明りで障子だけは少々あかるい。月はまだ出ていない。おれと山嵐は一生懸命いっしょうけんめいに障子へ面かおをつけて、息を凝こらしている。チーンと九時半の柱時計が鳴った。
「おい来るだろうかな。今夜来なければ僕はもう厭いやだぜ」
「おれは銭のつづく限りやるんだ」
「銭っていくらあるんだい」
「今日までで八日分五円六十銭払った。いつ飛び出しても都合つごうのいいように毎晩勘定かんじょうするんだ」
「それは手廻しがいい。宿屋で驚いてるだろう」
「宿屋はいいが、気が放せないから困る」
「その代り昼寝ひるねをするだろう」
「昼寝はするが、外出が出来ないんで窮屈きゅうくつでたまらない」
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々てんもうかいかい疎そにして洩もらしちまったり、何かしちゃ、つまらないぜ」
「なに今夜はきっとくるよ。――おい見ろ見ろ」と小声になったから、おれは思わずどきりとした。黒い帽子ぼうしを戴いただいた男が、角屋の瓦斯燈を下から見上げたまま暗い方へ通り過ぎた。違っている。おやおやと思った。そのうち帳場の時計が遠慮えんりょなく十時を打った。今夜もとうとう駄目らしい。
 世間は大分静かになった。遊廓ゆうかくで鳴らす太鼓たいこが手に取るように聞きこえる。月が温泉ゆの山の後うしろからのっと顔を出した。往来はあかるい。すると、下しもの方から人声が聞えだした。窓から首を出す訳には行かないから、姿を突つき留める事は出来ないが、だんだん近づいて来る模様だ。からんからんと駒下駄こまげたを引き擦ずる音がする。眼を斜ななめにするとやっと二人の影法師かげぼうしが見えるくらいに近づいた。
「もう大丈夫だいじょうぶですね。邪魔じゃまものは追っ払ったから」正まさしく野だの声である。「強がるばかりで策がないから、仕様がない」これは赤シャツだ。「あの男もべらんめえに似ていますね。あのべらんめえと来たら、勇み肌はだの坊ぼっちゃんだから愛嬌あいきょうがありますよ」「増給がいやだの辞表を出したいのって、ありゃどうしても神経に異状があるに相違ない」おれは窓をあけて、二階から飛び下りて、思う様打ぶちのめしてやろうと思ったが、やっとの事で辛防しんぼうした。二人はハハハハと笑いながら、瓦斯燈の下を潜くぐって、角屋の中へはいった。
「おい」
「おい」
「来たぜ」
「とうとう来た」
「これでようやく安心した」
「野だの畜生、おれの事を勇み肌の坊っちゃんだと抜ぬかしやがった」
「邪魔物と云うのは、おれの事だぜ。失敬千万な」
 おれと山嵐は二人の帰路を要撃ようげきしなければならない。しかし二人はいつ出てくるか見当がつかない。山嵐は下へ行って今夜ことによると夜中に用事があって出るかも知れないから、出られるようにしておいてくれと頼たのんで来た。今思うと、よく宿のものが承知したものだ。大抵たいていなら泥棒どろぼうと間違えられるところだ。
 赤シャツの来るのを待ち受けたのはつらかったが、出て来るのをじっとして待ってるのはなおつらい。寝る訳には行かないし、始終障子の隙すきから睨めているのもつらいし、どうも、こうも心が落ちつかなくって、これほど難儀なんぎな思いをした事はいまだにない。いっその事角屋へ踏み込んで現場を取って抑おさえようと発議ほつぎしたが、山嵐は一言にして、おれの申し出を斥しりぞけた。自分共が今時分飛び込んだって、乱暴者だと云って途中とちゅうで遮さえぎられる。訳を話して面会を求めれば居ないと逃にげるか別室へ案内をする。不用意のところへ踏み込めると仮定したところで何十とある座敷のどこに居るか分るものではない、退屈でも出るのを待つより外に策はないと云うから、ようやくの事でとうとう朝の五時まで我慢がまんした。
 角屋から出る二人の影を見るや否や、おれと山嵐はすぐあとを尾つけた。一番汽車はまだないから、二人とも城下まであるかなければならない。温泉ゆの町をはずれると一丁ばかりの杉並木すぎなみきがあって左右は田圃たんぼになる。それを通りこすとここかしこに藁葺わらぶきがあって、畠はたけの中を一筋に城下まで通る土手へ出る。町さえはずれれば、どこで追いついても構わないが、なるべくなら、人家のない、杉並木で捕つらまえてやろうと、見えがくれについて来た。町を外はずれると急に馳かけ足あしの姿勢で、はやてのように後ろから、追いついた。何が来たかと驚ろいて振ふり向く奴を待てと云って肩に手をかけた。野だは狼狽ろうばいの気味で逃げ出そうという景色けしきだったから、おれが前へ廻って行手を塞ふさいでしまった。
「教頭の職を持ってるものが何で角屋へ行って泊とまった」と山嵐はすぐ詰なじりかけた。
「教頭は角屋へ泊って悪わるいという規則がありますか」と赤シャツは依然いぜんとして鄭寧ていねいな言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
「取締上とりしまりじょう不都合だから、蕎麦屋そばやや団子屋だんごやへさえはいってはいかんと、云うくらい謹直きんちょくな人が、なぜ芸者といっしょに宿屋へとまり込んだ」野だは隙を見ては逃げ出そうとするからおれはすぐ前に立ち塞がって「べらんめえの坊っちゃんた何だ」と怒鳴り付けたら、「いえ君の事を云ったんじゃないんです、全くないんです」と鉄面皮に言訳がましい事をぬかした。おれはこの時気がついてみたら、両手で自分の袂を握にぎってる。追っかける時に袂の中の卵がぶらぶらして困るから、両手で握りながら来たのである。おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へ擲たたきつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。野だはよっぽど仰天ぎょうてんした者と見えて、わっと言いながら、尻持しりもちをついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、打ぶつけるために袂へ入れてる訳ではない。ただ肝癪かんしゃくのあまりに、ついぶつけるともなしに打つけてしまったのだ。しかし野だが尻持を突いたところを見て始めて、おれの成功した事に気がついたから、こん畜生ちくしょう、こん畜生と云いながら残る六つを無茶苦茶に擲たたきつけたら、野だは顔中黄色になった。

960 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:29.05 ID:940a8eadrD-041b-d4f8
長文レスが自動AA判定でちっちゃくなるのほんとチビ

961 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:31.43 ID:7e7c7a3217-8b08-4a09
>>916
>>919
FAx拓也さん知らんのか🙄

962 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:58.39 ID:a78f590403-c206-d20e
ここいらがいいだろうと船頭は船をとめて、錨いかりを卸した。幾尋いくひろあるかねと赤シャツが聞くと、六尋むひろぐらいだと云う。六尋ぐらいじゃ鯛たいはむずかしいなと、赤シャツは糸を海へなげ込んだ。大将鯛を釣る気と見える、豪胆ごうたんなものだ。野だは、なに教頭のお手際じゃかかりますよ。それになぎですからとお世辞を云いながら、これも糸を繰くり出して投げ入れる。何だか先に錘おもりのような鉛なまりがぶら下がってるだけだ。浮うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。おれには到底とうてい出来ないと見ていると、さあ君もやりたまえ糸はありますかと聞く。糸はあまるほどあるが、浮がありませんと云ったら、浮がなくっちゃ釣が出来ないのは素人しろうとですよ。こうしてね、糸が水底みずそこへついた時分に、船縁ふなべりの所で人指しゆびで呼吸をはかるんです、食うとすぐ手に答える。――そらきた、と先生急に糸をたぐり始めるから、何かかかったと思ったら何にもかからない、餌えがなくなってたばかりだ。いい気味きびだ。教頭、残念な事をしましたね、今のはたしかに大ものに違いなかったんですが、どうも教頭のお手際でさえ逃にげられちゃ、今日は油断ができませんよ。しかし逃げられても何ですね。浮と睨にらめくらをしている連中よりはましですね。ちょうど歯どめがなくっちゃ自転車へ乗れないのと同程度ですからねと野だは妙みような事ばかり喋舌しゃべる。よっぽど撲なぐりつけてやろうかと思った。おれだって人間だ、教頭ひとりで借り切った海じゃあるまいし。広い所だ。鰹かつおの一匹ぐらい義理にだって、かかってくれるだろうと、どぼんと錘と糸を抛ほうり込んでいい加減に指の先であやつっていた。
 しばらくすると、何だかぴくぴくと糸にあたるものがある。おれは考えた。こいつは魚に相違ない。生きてるものでなくっちゃ、こうぴくつく訳がない。しめた、釣れたとぐいぐい手繰たぐり寄せた。おや釣れましたかね、後世恐おそるべしだと野だがひやかすうち、糸はもう大概手繰り込んでただ五尺ばかりほどしか、水に浸ついておらん。船縁から覗のぞいてみたら、金魚のような縞しまのある魚が糸にくっついて、右左へ漾ただよいながら、手に応じて浮き上がってくる。面白い。水際から上げるとき、ぽちゃりと跳はねたから、おれの顔は潮水だらけになった。ようやくつらまえて、針をとろうとするがなかなか取れない。捕つらまえた手はぬるぬるする。大いに気味がわるい。面倒だから糸を振ふって胴どうの間まへ擲たたきつけたら、すぐ死んでしまった。赤シャツと野だは驚ろいて見ている。おれは海の中で手をざぶざぶと洗って、鼻の先へあてがってみた。まだ腥臭なまぐさい。もう懲こり懲ごりだ。何が釣れたって魚は握にぎりたくない。魚も握られたくなかろう。そうそう糸を捲いてしまった。
 一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。ゴルキが露西亜の文学者で、丸木が芝しばの写真師で、米のなる木が命の親だろう。一体この赤シャツはわるい癖くせだ。誰だれを捕つらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。云いうならフランクリンの自伝だとかプッシング、ツー、ゼ、フロントだとか、おれでも知ってる名を使うがいい。赤シャツは時々帝国文学とかいう真赤まっかな雑誌を学校へ持って来て難有ありがたそうに読んでいる。山嵐やまあらしに聞いてみたら、赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。帝国文学も罪な雑誌だ。
 それから赤シャツと野だは一生懸命いっしょうけんめいに釣っていたが、約一時間ばかりのうちに二人ふたりで十五六上げた。可笑おかしい事に釣れるのも、釣れるのも、みんなゴルキばかりだ。鯛なんて薬にしたくってもありゃしない。今日は露西亜文学の大当りだと赤シャツが野だに話している。あなたの手腕しゅわんでゴルキなんですから、私わたしなんぞがゴルキなのは仕方がありません。当り前ですなと野だが答えている。船頭に聞くとこの小魚は骨が多くって、まずくって、とても食えないんだそうだ。ただ肥料こやしには出来るそうだ。赤シャツと野だは一生懸命に肥料を釣っているんだ。気の毒の至りだ。おれは一匹ぴきで懲こりたから、胴の間へ仰向あおむけになって、さっきから大空を眺めていた。釣をするよりこの方がよっぽど洒落しゃれている。
 すると二人は小声で何か話し始めた。おれにはよく聞きこえない、また聞きたくもない。おれは空を見ながら清きよの事を考えている。金があって、清をつれて、こんな奇麗きれいな所へ遊びに来たらさぞ愉快だろう。いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。清は皺苦茶しわくちゃだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥はずかしい心持ちはしない。野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣りょううんかくへのろうが、到底寄り付けたものじゃない。おれが教頭で、赤シャツがおれだったら、やっぱりおれにへけつけお世辞を使って赤シャツを冷ひやかすに違いない。江戸っ子は軽薄けいはくだと云うがなるほどこんなものが田舎巡いなかまわりをして、私わたしは江戸っ子でげすと繰り返していたら、軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄の事だと田舎者が思うに極まってる。こんな事を考えていると、何だか二人がくすくす笑い出した。笑い声の間に何か云うが途切とぎれ途切れでとんと要領を得ない。
「え? どうだか……」「……全くです……知らないんですから……罪ですね」「まさか……」「バッタを……本当ですよ」
 おれは外の言葉には耳を傾かたむけなかったが、バッタと云う野だの語ことばを聴きいた時は、思わずきっとなった。野だは何のためかバッタと云う言葉だけことさら力を入れて、明瞭めいりょうにおれの耳にはいるようにして、そのあとをわざとぼかしてしまった。おれは動かないでやはり聞いていた。
「また例の堀田ほったが……」「そうかも知れない……」「天麩羅てんぷら……ハハハハハ」「……煽動せんどうして……」「団子だんごも?」
 言葉はかように途切れ途切れであるけれども、バッタだの天麩羅だの、団子だのというところをもって推し測ってみると、何でもおれのことについて内所話ないしょばなしをしているに相違ない。話すならもっと大きな声で話すがいい、また内所話をするくらいなら、おれなんか誘わなければいい。いけ好かない連中だ。バッタだろうが雪踏せっただろうが、非はおれにある事じゃない。校長がひとまずあずけろと云ったから、狸たぬきの顔にめんじてただ今のところは控ひかえているんだ。野だの癖に入らぬ批評をしやがる。毛筆けふででもしゃぶって引っ込んでるがいい。おれの事は、遅おそかれ早かれ、おれ一人で片付けてみせるから、差支さしつかえはないが、また例の堀田がとか煽動してとか云う文句が気にかかる。堀田がおれを煽動して騒動そうどうを大きくしたと云う意味なのか、あるいは堀田が生徒を煽動しておれをいじめたと云うのか方角がわからない。青空を見ていると、日の光がだんだん弱って来て、少しはひやりとする風が吹き出した。線香せんこうの烟けむりのような雲が、透すき徹とおる底の上を静かに伸のして行ったと思ったら、いつしか底の奥おくに流れ込んで、うすくもやを掛かけたようになった。
 もう帰ろうかと赤シャツが思い出したように云うと、ええちょうど時分ですね。今夜はマドンナの君にお逢あいですかと野だが云う。赤シャツは馬鹿ばかあ云っちゃいけない、間違いになると、船縁に身を倚もたした奴やつを、少し起き直る。エヘヘヘヘ大丈夫ですよ。聞いたって……と野だが振り返った時、おれは皿さらのような眼めを野だの頭の上へまともに浴びせ掛けてやった。野だはまぼしそうに引っ繰り返って、や、こいつは降参だと首を縮めて、頭を掻かいた。何という猪口才ちょこざいだろう。
 船は静かな海を岸へ漕こぎ戻もどる。君釣つりはあまり好きでないと見えますねと赤シャツが聞くから、ええ寝ねていて空を見る方がいいですと答えて、吸いかけた巻烟草まきたばこを海の中へたたき込んだら、ジュと音がして艪ろの足で掻き分けられた浪なみの上を揺ゆられながら漾ただよっていった。「君が来たんで生徒も大いに喜んでいるから、奮発ふんぱつしてやってくれたまえ」と今度は釣にはまるで縁故えんこもない事を云い出した。「あんまり喜んでもいないでしょう」「いえ、お世辞じゃない。全く喜んでいるんです、ね、吉川君」「喜んでるどころじゃない。大騒おおさわぎです」と野だはにやにやと笑った。こいつの云う事は一々癪しゃくに障さわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」と云ってやった。実際おれは免職めんしょくになるか、寄宿生をことごとくあやまらせるか、どっちか一つにする了見でいた。「そう云っちゃ、取りつきどころもないが――実は僕も教頭として君のためを思うから云うんだが、わるく取っちゃ困る」「教頭は全く君に好意を持ってるんですよ。僕も及およばずながら、同じ江戸っ子だから、なるべく長くご在校を願って、お互たがいに力になろうと思って、これでも蔭ながら尽力じんりょくしているんですよ」と野だが人間並なみの事を云った。野だのお世話になるくらいなら首を縊くくって死んじまわあ。
「それでね、生徒は君の来たのを大変歓迎かんげいしているんだが、そこにはいろいろな事情があってね。君も腹の立つ事もあるだろうが、ここが我慢がまんだと思って、辛防しんぼうしてくれたまえ。決して君のためにならないような事はしないから」

963 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:43.13 ID:1270ae0fa1-74b3-f7a8
>>956
勝川で張ったらすぐ見つかりそう🤪

964 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:44.39 ID:526955ae0A-9484-de60
自分の知ってる仕様じゃなくなると
何も出来なくなっていくんやな…

965 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:59.09 ID:8c8dbd70d0-2483-b85a
野だは大嫌だいきらいだ。こんな奴やつは沢庵石たくあんいしをつけて海の底へ沈しずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だめだ。惚ほれるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云いう。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐やまあらしがよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪わるい教師なら、早く免職めんしょくさしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖くせに意気地いくじのないもんだ。蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極きまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違ちがう。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。今に火事が氷って、石が豆腐とうふになるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵たいていの事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻まわりくどい事をしないでも、じかにおれを捕つらまえて喧嘩けんかを吹き懸かけりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
 ここへ来た時第一番に氷水を奢おごったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯ぱいしか飲まなかったから一銭五厘りんしか払はらわしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師さぎしの恩になっては、死ぬまで心持ちがよくない。あした学校へ行ったら、一銭五厘返しておこう。おれは清きよから三円借りている。その三円は五年経たった今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。清は今に返すだろうなどと、かりそめにもおれの懐中かいちゅうをあてにしてはいない。おれも今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほど清の心を疑ぐるようなもので、清の美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのは清を踏ふみつけるのじゃない、清をおれの片破かたわれと思うからだ。清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人から恵めぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有ありがたいと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊たっといお礼と思わなければならない。
 おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつな振舞ふるまいをするとは怪けしからん野郎やろうだ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいて喧嘩をしてやろう。
 おれはここまで考えたら、眠ねむくなったからぐうぐう寝ねてしまった。あくる日は思う仔細しさいがあるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本竪たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。おれは、控所ひかえじょへはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握にぎって来た。おれは膏あぶらっ手だから、開けてみると一銭五厘が汗あせをかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑めいわくでしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱ひじを突ついて、あの盤台面ばんだいづらをおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰だれにも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎なぞをかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬しのぎを削けずってる真中まんなかへ出て堂々とおれの肩かたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
 おれは教頭に向むかって、まだ誰にも話さないが、これから山嵐と談判するつもりだと云ったら、赤シャツは大いに狼狽ろうばいして、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕ぼくは堀田ほった君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は学校に騒動そうどうを起すつもりで来たんじゃなかろうと妙みょうに常識をはずれた質問をするから、当あたり前まえです、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、学校の方でも困るでしょうと云った。すると赤シャツはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼いらいに及およぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなにあなたが迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念を押おした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。しかもこのおれを疑ぐってる。憚はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
 ところへ両隣りょうどなりの机の所有主も出校したんで、赤シャツは早々自分の席へ帰って行った。赤シャツは歩あるき方から気取ってる。部屋の中を往来するのでも、音を立てないように靴くつの底をそっと落おとす。音を立てないであるくのが自慢じまんになるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒どろぼうの稽古けいこじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭らっぱがなった。山嵐はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛でかけた。
 授業の都合つごうで一時間目は少し後おくれて、控所へ帰ったら、ほかの教師はみんな机を控えて話をしている。山嵐もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻ちこくしたんだ。おれの顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰金ばっきんを出したまえと云った。おれは机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達せんだって通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上に掃はき返した。おや山嵐の癖くせにどこまでも奢る気だな。
「冗談じゃない本当だ。おれは君に氷水を奢られる因縁いんえんがないから、出すんだ。取らない法があるか」
「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」
「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」
 山嵐は冷然とおれの顔を見てふんと云った。赤シャツの依頼がなければ、ここで山嵐の卑劣ひれつをあばいて大喧嘩をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤まっかになってるのにふんという理窟りくつがあるものか。
「氷水の代は受け取るから、下宿は出てくれ」
「一銭五厘受け取ればそれでいい。下宿を出ようが出まいがおれの勝手だ」
「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主ていしゅが来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝けさあすこへ寄って詳くわしい話を聞いてきたんだ」
 おれには山嵐の云う事が何の意味だか分らない。
「亭主が君に何を話したんだか、おれが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持て余あまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭ふかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
「おれが、いつ下宿の女房に足を拭かせた」
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一幅ぷく売りゃ、すぐ浮ういてくるって云ってたぜ」

966 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:49.26 ID:7e6a484507-cf85-fd85
でももう埋まっちゃうやん

967 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:30:59.99 ID:1587379c17-8153-bf8c
八日目には七時頃から下宿を出て、まずゆるりと湯に入って、それから町で鶏卵けいらんを八つ買った。これは下宿の婆さんの芋責いもぜめに応ずる策である。その玉子を四つずつ左右の袂たもとへ入れて、例の赤手拭あかてぬぐいを肩かたへ乗せて、懐手ふところでをしながら、枡屋ますやの楷子段はしごだんを登って山嵐の座敷ざしきの障子をあけると、おい有望有望と韋駄天いだてんのような顔は急に活気を呈ていした。昨夜ゆうべまでは少し塞ふさぎの気味で、はたで見ているおれさえ、陰気臭いんきくさいと思ったくらいだが、この顔色を見たら、おれも急にうれしくなって、何も聞かない先から、愉快ゆかい愉快と云った。
「今夜七時半頃あの小鈴こすずと云う芸者が角屋へはいった」
「赤シャツといっしょか」
「いいや」
「それじゃ駄目だ」
「芸者は二人づれだが、――どうも有望らしい」
「どうして」
「どうしてって、ああ云う狡ずるい奴だから、芸者を先へよこして、後から忍んでくるかも知れない」
「そうかも知れない。もう九時だろう」
「今九時十二分ばかりだ」と帯の間からニッケル製の時計を出して見ながら云ったが「おい洋燈らんぷを消せ、障子へ二つ坊主頭が写ってはおかしい。狐きつねはすぐ疑ぐるから」
 おれは一貫張いっかんばりの机の上にあった置き洋燈らんぷをふっと吹きけした。星明りで障子だけは少々あかるい。月はまだ出ていない。おれと山嵐は一生懸命いっしょうけんめいに障子へ面かおをつけて、息を凝こらしている。チーンと九時半の柱時計が鳴った。
「おい来るだろうかな。今夜来なければ僕はもう厭いやだぜ」
「おれは銭のつづく限りやるんだ」
「銭っていくらあるんだい」
「今日までで八日分五円六十銭払った。いつ飛び出しても都合つごうのいいように毎晩勘定かんじょうするんだ」
「それは手廻しがいい。宿屋で驚いてるだろう」
「宿屋はいいが、気が放せないから困る」
「その代り昼寝ひるねをするだろう」
「昼寝はするが、外出が出来ないんで窮屈きゅうくつでたまらない」
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々てんもうかいかい疎そにして洩もらしちまったり、何かしちゃ、つまらないぜ」
「なに今夜はきっとくるよ。――おい見ろ見ろ」と小声になったから、おれは思わずどきりとした。黒い帽子ぼうしを戴いただいた男が、角屋の瓦斯燈を下から見上げたまま暗い方へ通り過ぎた。違っている。おやおやと思った。そのうち帳場の時計が遠慮えんりょなく十時を打った。今夜もとうとう駄目らしい。
 世間は大分静かになった。遊廓ゆうかくで鳴らす太鼓たいこが手に取るように聞きこえる。月が温泉ゆの山の後うしろからのっと顔を出した。往来はあかるい。すると、下しもの方から人声が聞えだした。窓から首を出す訳には行かないから、姿を突つき留める事は出来ないが、だんだん近づいて来る模様だ。からんからんと駒下駄こまげたを引き擦ずる音がする。眼を斜ななめにするとやっと二人の影法師かげぼうしが見えるくらいに近づいた。
「もう大丈夫だいじょうぶですね。邪魔じゃまものは追っ払ったから」正まさしく野だの声である。「強がるばかりで策がないから、仕様がない」これは赤シャツだ。「あの男もべらんめえに似ていますね。あのべらんめえと来たら、勇み肌はだの坊ぼっちゃんだから愛嬌あいきょうがありますよ」「増給がいやだの辞表を出したいのって、ありゃどうしても神経に異状があるに相違ない」おれは窓をあけて、二階から飛び下りて、思う様打ぶちのめしてやろうと思ったが、やっとの事で辛防しんぼうした。二人はハハハハと笑いながら、瓦斯燈の下を潜くぐって、角屋の中へはいった。
「おい」
「おい」
「来たぜ」
「とうとう来た」
「これでようやく安心した」
「野だの畜生、おれの事を勇み肌の坊っちゃんだと抜ぬかしやがった」
「邪魔物と云うのは、おれの事だぜ。失敬千万な」
 おれと山嵐は二人の帰路を要撃ようげきしなければならない。しかし二人はいつ出てくるか見当がつかない。山嵐は下へ行って今夜ことによると夜中に用事があって出るかも知れないから、出られるようにしておいてくれと頼たのんで来た。今思うと、よく宿のものが承知したものだ。大抵たいていなら泥棒どろぼうと間違えられるところだ。
 赤シャツの来るのを待ち受けたのはつらかったが、出て来るのをじっとして待ってるのはなおつらい。寝る訳には行かないし、始終障子の隙すきから睨めているのもつらいし、どうも、こうも心が落ちつかなくって、これほど難儀なんぎな思いをした事はいまだにない。いっその事角屋へ踏み込んで現場を取って抑おさえようと発議ほつぎしたが、山嵐は一言にして、おれの申し出を斥しりぞけた。自分共が今時分飛び込んだって、乱暴者だと云って途中とちゅうで遮さえぎられる。訳を話して面会を求めれば居ないと逃にげるか別室へ案内をする。不用意のところへ踏み込めると仮定したところで何十とある座敷のどこに居るか分るものではない、退屈でも出るのを待つより外に策はないと云うから、ようやくの事でとうとう朝の五時まで我慢がまんした。
 角屋から出る二人の影を見るや否や、おれと山嵐はすぐあとを尾つけた。一番汽車はまだないから、二人とも城下まであるかなければならない。温泉ゆの町をはずれると一丁ばかりの杉並木すぎなみきがあって左右は田圃たんぼになる。それを通りこすとここかしこに藁葺わらぶきがあって、畠はたけの中を一筋に城下まで通る土手へ出る。町さえはずれれば、どこで追いついても構わないが、なるべくなら、人家のない、杉並木で捕つらまえてやろうと、見えがくれについて来た。町を外はずれると急に馳かけ足あしの姿勢で、はやてのように後ろから、追いついた。何が来たかと驚ろいて振ふり向く奴を待てと云って肩に手をかけた。野だは狼狽ろうばいの気味で逃げ出そうという景色けしきだったから、おれが前へ廻って行手を塞ふさいでしまった。
「教頭の職を持ってるものが何で角屋へ行って泊とまった」と山嵐はすぐ詰なじりかけた。
「教頭は角屋へ泊って悪わるいという規則がありますか」と赤シャツは依然いぜんとして鄭寧ていねいな言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
「取締上とりしまりじょう不都合だから、蕎麦屋そばやや団子屋だんごやへさえはいってはいかんと、云うくらい謹直きんちょくな人が、なぜ芸者といっしょに宿屋へとまり込んだ」野だは隙を見ては逃げ出そうとするからおれはすぐ前に立ち塞がって「べらんめえの坊っちゃんた何だ」と怒鳴り付けたら、「いえ君の事を云ったんじゃないんです、全くないんです」と鉄面皮に言訳がましい事をぬかした。おれはこの時気がついてみたら、両手で自分の袂を握にぎってる。追っかける時に袂の中の卵がぶらぶらして困るから、両手で握りながら来たのである。おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へ擲たたきつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。野だはよっぽど仰天ぎょうてんした者と見えて、わっと言いながら、尻持しりもちをついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、打ぶつけるために袂へ入れてる訳ではない。ただ肝癪かんしゃくのあまりに、ついぶつけるともなしに打つけてしまったのだ。しかし野だが尻持を突いたところを見て始めて、おれの成功した事に気がついたから、こん畜生ちくしょう、こん畜生と云いながら残る六つを無茶苦茶に擲たたきつけたら、野だは顔中黄色になった。

968 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:56.86 ID:52727ea7M1-4213-bde0
ブラウザからポチポチで草

969 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:58.99 ID:ffebe97f07-0f38-f190
ちびびまーた今日も完全敗北して手動シュポシュポしてるの?哀れだなぁ🥺

970 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:01.25 ID:a78f170403-d01e-f51e
野だは大嫌だいきらいだ。こんな奴やつは沢庵石たくあんいしをつけて海の底へ沈しずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だめだ。惚ほれるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云いう。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐やまあらしがよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪わるい教師なら、早く免職めんしょくさしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖くせに意気地いくじのないもんだ。蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極きまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違ちがう。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。今に火事が氷って、石が豆腐とうふになるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵たいていの事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻まわりくどい事をしないでも、じかにおれを捕つらまえて喧嘩けんかを吹き懸かけりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
 ここへ来た時第一番に氷水を奢おごったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯ぱいしか飲まなかったから一銭五厘りんしか払はらわしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師さぎしの恩になっては、死ぬまで心持ちがよくない。あした学校へ行ったら、一銭五厘返しておこう。おれは清きよから三円借りている。その三円は五年経たった今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。清は今に返すだろうなどと、かりそめにもおれの懐中かいちゅうをあてにしてはいない。おれも今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほど清の心を疑ぐるようなもので、清の美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのは清を踏ふみつけるのじゃない、清をおれの片破かたわれと思うからだ。清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人から恵めぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有ありがたいと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊たっといお礼と思わなければならない。
 おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつな振舞ふるまいをするとは怪けしからん野郎やろうだ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいて喧嘩をしてやろう。
 おれはここまで考えたら、眠ねむくなったからぐうぐう寝ねてしまった。あくる日は思う仔細しさいがあるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本竪たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。おれは、控所ひかえじょへはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握にぎって来た。おれは膏あぶらっ手だから、開けてみると一銭五厘が汗あせをかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑めいわくでしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱ひじを突ついて、あの盤台面ばんだいづらをおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰だれにも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎なぞをかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬しのぎを削けずってる真中まんなかへ出て堂々とおれの肩かたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
 おれは教頭に向むかって、まだ誰にも話さないが、これから山嵐と談判するつもりだと云ったら、赤シャツは大いに狼狽ろうばいして、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕ぼくは堀田ほった君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は学校に騒動そうどうを起すつもりで来たんじゃなかろうと妙みょうに常識をはずれた質問をするから、当あたり前まえです、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、学校の方でも困るでしょうと云った。すると赤シャツはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼いらいに及およぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなにあなたが迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念を押おした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。しかもこのおれを疑ぐってる。憚はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
 ところへ両隣りょうどなりの机の所有主も出校したんで、赤シャツは早々自分の席へ帰って行った。赤シャツは歩あるき方から気取ってる。部屋の中を往来するのでも、音を立てないように靴くつの底をそっと落おとす。音を立てないであるくのが自慢じまんになるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒どろぼうの稽古けいこじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭らっぱがなった。山嵐はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛でかけた。
 授業の都合つごうで一時間目は少し後おくれて、控所へ帰ったら、ほかの教師はみんな机を控えて話をしている。山嵐もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻ちこくしたんだ。おれの顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰金ばっきんを出したまえと云った。おれは机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達せんだって通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上に掃はき返した。おや山嵐の癖くせにどこまでも奢る気だな。
「冗談じゃない本当だ。おれは君に氷水を奢られる因縁いんえんがないから、出すんだ。取らない法があるか」
「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」
「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」
 山嵐は冷然とおれの顔を見てふんと云った。赤シャツの依頼がなければ、ここで山嵐の卑劣ひれつをあばいて大喧嘩をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤まっかになってるのにふんという理窟りくつがあるものか。
「氷水の代は受け取るから、下宿は出てくれ」
「一銭五厘受け取ればそれでいい。下宿を出ようが出まいがおれの勝手だ」
「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主ていしゅが来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝けさあすこへ寄って詳くわしい話を聞いてきたんだ」
 おれには山嵐の云う事が何の意味だか分らない。
「亭主が君に何を話したんだか、おれが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持て余あまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭ふかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
「おれが、いつ下宿の女房に足を拭かせた」
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一幅ぷく売りゃ、すぐ浮ういてくるって云ってたぜ」

971 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:33:10.45 ID:a2da7aad1D-b1f6-bf54
>>954
たしかに

972 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:33:10.57 ID:163e960b04-7a45-56fd
バルサン遅すぎで草

973 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:01.56 ID:15ef9af807-10f9-06de
ここいらがいいだろうと船頭は船をとめて、錨いかりを卸した。幾尋いくひろあるかねと赤シャツが聞くと、六尋むひろぐらいだと云う。六尋ぐらいじゃ鯛たいはむずかしいなと、赤シャツは糸を海へなげ込んだ。大将鯛を釣る気と見える、豪胆ごうたんなものだ。野だは、なに教頭のお手際じゃかかりますよ。それになぎですからとお世辞を云いながら、これも糸を繰くり出して投げ入れる。何だか先に錘おもりのような鉛なまりがぶら下がってるだけだ。浮うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。おれには到底とうてい出来ないと見ていると、さあ君もやりたまえ糸はありますかと聞く。糸はあまるほどあるが、浮がありませんと云ったら、浮がなくっちゃ釣が出来ないのは素人しろうとですよ。こうしてね、糸が水底みずそこへついた時分に、船縁ふなべりの所で人指しゆびで呼吸をはかるんです、食うとすぐ手に答える。――そらきた、と先生急に糸をたぐり始めるから、何かかかったと思ったら何にもかからない、餌えがなくなってたばかりだ。いい気味きびだ。教頭、残念な事をしましたね、今のはたしかに大ものに違いなかったんですが、どうも教頭のお手際でさえ逃にげられちゃ、今日は油断ができませんよ。しかし逃げられても何ですね。浮と睨にらめくらをしている連中よりはましですね。ちょうど歯どめがなくっちゃ自転車へ乗れないのと同程度ですからねと野だは妙みような事ばかり喋舌しゃべる。よっぽど撲なぐりつけてやろうかと思った。おれだって人間だ、教頭ひとりで借り切った海じゃあるまいし。広い所だ。鰹かつおの一匹ぐらい義理にだって、かかってくれるだろうと、どぼんと錘と糸を抛ほうり込んでいい加減に指の先であやつっていた。
 しばらくすると、何だかぴくぴくと糸にあたるものがある。おれは考えた。こいつは魚に相違ない。生きてるものでなくっちゃ、こうぴくつく訳がない。しめた、釣れたとぐいぐい手繰たぐり寄せた。おや釣れましたかね、後世恐おそるべしだと野だがひやかすうち、糸はもう大概手繰り込んでただ五尺ばかりほどしか、水に浸ついておらん。船縁から覗のぞいてみたら、金魚のような縞しまのある魚が糸にくっついて、右左へ漾ただよいながら、手に応じて浮き上がってくる。面白い。水際から上げるとき、ぽちゃりと跳はねたから、おれの顔は潮水だらけになった。ようやくつらまえて、針をとろうとするがなかなか取れない。捕つらまえた手はぬるぬるする。大いに気味がわるい。面倒だから糸を振ふって胴どうの間まへ擲たたきつけたら、すぐ死んでしまった。赤シャツと野だは驚ろいて見ている。おれは海の中で手をざぶざぶと洗って、鼻の先へあてがってみた。まだ腥臭なまぐさい。もう懲こり懲ごりだ。何が釣れたって魚は握にぎりたくない。魚も握られたくなかろう。そうそう糸を捲いてしまった。
 一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。ゴルキが露西亜の文学者で、丸木が芝しばの写真師で、米のなる木が命の親だろう。一体この赤シャツはわるい癖くせだ。誰だれを捕つらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。云いうならフランクリンの自伝だとかプッシング、ツー、ゼ、フロントだとか、おれでも知ってる名を使うがいい。赤シャツは時々帝国文学とかいう真赤まっかな雑誌を学校へ持って来て難有ありがたそうに読んでいる。山嵐やまあらしに聞いてみたら、赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。帝国文学も罪な雑誌だ。
 それから赤シャツと野だは一生懸命いっしょうけんめいに釣っていたが、約一時間ばかりのうちに二人ふたりで十五六上げた。可笑おかしい事に釣れるのも、釣れるのも、みんなゴルキばかりだ。鯛なんて薬にしたくってもありゃしない。今日は露西亜文学の大当りだと赤シャツが野だに話している。あなたの手腕しゅわんでゴルキなんですから、私わたしなんぞがゴルキなのは仕方がありません。当り前ですなと野だが答えている。船頭に聞くとこの小魚は骨が多くって、まずくって、とても食えないんだそうだ。ただ肥料こやしには出来るそうだ。赤シャツと野だは一生懸命に肥料を釣っているんだ。気の毒の至りだ。おれは一匹ぴきで懲こりたから、胴の間へ仰向あおむけになって、さっきから大空を眺めていた。釣をするよりこの方がよっぽど洒落しゃれている。
 すると二人は小声で何か話し始めた。おれにはよく聞きこえない、また聞きたくもない。おれは空を見ながら清きよの事を考えている。金があって、清をつれて、こんな奇麗きれいな所へ遊びに来たらさぞ愉快だろう。いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。清は皺苦茶しわくちゃだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥はずかしい心持ちはしない。野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣りょううんかくへのろうが、到底寄り付けたものじゃない。おれが教頭で、赤シャツがおれだったら、やっぱりおれにへけつけお世辞を使って赤シャツを冷ひやかすに違いない。江戸っ子は軽薄けいはくだと云うがなるほどこんなものが田舎巡いなかまわりをして、私わたしは江戸っ子でげすと繰り返していたら、軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄の事だと田舎者が思うに極まってる。こんな事を考えていると、何だか二人がくすくす笑い出した。笑い声の間に何か云うが途切とぎれ途切れでとんと要領を得ない。
「え? どうだか……」「……全くです……知らないんですから……罪ですね」「まさか……」「バッタを……本当ですよ」
 おれは外の言葉には耳を傾かたむけなかったが、バッタと云う野だの語ことばを聴きいた時は、思わずきっとなった。野だは何のためかバッタと云う言葉だけことさら力を入れて、明瞭めいりょうにおれの耳にはいるようにして、そのあとをわざとぼかしてしまった。おれは動かないでやはり聞いていた。
「また例の堀田ほったが……」「そうかも知れない……」「天麩羅てんぷら……ハハハハハ」「……煽動せんどうして……」「団子だんごも?」
 言葉はかように途切れ途切れであるけれども、バッタだの天麩羅だの、団子だのというところをもって推し測ってみると、何でもおれのことについて内所話ないしょばなしをしているに相違ない。話すならもっと大きな声で話すがいい、また内所話をするくらいなら、おれなんか誘わなければいい。いけ好かない連中だ。バッタだろうが雪踏せっただろうが、非はおれにある事じゃない。校長がひとまずあずけろと云ったから、狸たぬきの顔にめんじてただ今のところは控ひかえているんだ。野だの癖に入らぬ批評をしやがる。毛筆けふででもしゃぶって引っ込んでるがいい。おれの事は、遅おそかれ早かれ、おれ一人で片付けてみせるから、差支さしつかえはないが、また例の堀田がとか煽動してとか云う文句が気にかかる。堀田がおれを煽動して騒動そうどうを大きくしたと云う意味なのか、あるいは堀田が生徒を煽動しておれをいじめたと云うのか方角がわからない。青空を見ていると、日の光がだんだん弱って来て、少しはひやりとする風が吹き出した。線香せんこうの烟けむりのような雲が、透すき徹とおる底の上を静かに伸のして行ったと思ったら、いつしか底の奥おくに流れ込んで、うすくもやを掛かけたようになった。
 もう帰ろうかと赤シャツが思い出したように云うと、ええちょうど時分ですね。今夜はマドンナの君にお逢あいですかと野だが云う。赤シャツは馬鹿ばかあ云っちゃいけない、間違いになると、船縁に身を倚もたした奴やつを、少し起き直る。エヘヘヘヘ大丈夫ですよ。聞いたって……と野だが振り返った時、おれは皿さらのような眼めを野だの頭の上へまともに浴びせ掛けてやった。野だはまぼしそうに引っ繰り返って、や、こいつは降参だと首を縮めて、頭を掻かいた。何という猪口才ちょこざいだろう。
 船は静かな海を岸へ漕こぎ戻もどる。君釣つりはあまり好きでないと見えますねと赤シャツが聞くから、ええ寝ねていて空を見る方がいいですと答えて、吸いかけた巻烟草まきたばこを海の中へたたき込んだら、ジュと音がして艪ろの足で掻き分けられた浪なみの上を揺ゆられながら漾ただよっていった。「君が来たんで生徒も大いに喜んでいるから、奮発ふんぱつしてやってくれたまえ」と今度は釣にはまるで縁故えんこもない事を云い出した。「あんまり喜んでもいないでしょう」「いえ、お世辞じゃない。全く喜んでいるんです、ね、吉川君」「喜んでるどころじゃない。大騒おおさわぎです」と野だはにやにやと笑った。こいつの云う事は一々癪しゃくに障さわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」と云ってやった。実際おれは免職めんしょくになるか、寄宿生をことごとくあやまらせるか、どっちか一つにする了見でいた。「そう云っちゃ、取りつきどころもないが――実は僕も教頭として君のためを思うから云うんだが、わるく取っちゃ困る」「教頭は全く君に好意を持ってるんですよ。僕も及およばずながら、同じ江戸っ子だから、なるべく長くご在校を願って、お互たがいに力になろうと思って、これでも蔭ながら尽力じんりょくしているんですよ」と野だが人間並なみの事を云った。野だのお世話になるくらいなら首を縊くくって死んじまわあ。
「それでね、生徒は君の来たのを大変歓迎かんげいしているんだが、そこにはいろいろな事情があってね。君も腹の立つ事もあるだろうが、ここが我慢がまんだと思って、辛防しんぼうしてくれたまえ。決して君のためにならないような事はしないから」

974 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:33:19.30 ID:1270ae0fa1-74b3-f7a8
🟥👕がNGワードにされる未来しか見えない

975 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:34.60 ID:15efc4f807-ec85-d83e
野だは大嫌だいきらいだ。こんな奴やつは沢庵石たくあんいしをつけて海の底へ沈しずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だめだ。惚ほれるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云いう。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐やまあらしがよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪わるい教師なら、早く免職めんしょくさしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖くせに意気地いくじのないもんだ。蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極きまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違ちがう。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。今に火事が氷って、石が豆腐とうふになるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵たいていの事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻まわりくどい事をしないでも、じかにおれを捕つらまえて喧嘩けんかを吹き懸かけりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
 ここへ来た時第一番に氷水を奢おごったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯ぱいしか飲まなかったから一銭五厘りんしか払はらわしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師さぎしの恩になっては、死ぬまで心持ちがよくない。あした学校へ行ったら、一銭五厘返しておこう。おれは清きよから三円借りている。その三円は五年経たった今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。清は今に返すだろうなどと、かりそめにもおれの懐中かいちゅうをあてにしてはいない。おれも今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほど清の心を疑ぐるようなもので、清の美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのは清を踏ふみつけるのじゃない、清をおれの片破かたわれと思うからだ。清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人から恵めぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有ありがたいと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊たっといお礼と思わなければならない。
 おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつな振舞ふるまいをするとは怪けしからん野郎やろうだ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいて喧嘩をしてやろう。
 おれはここまで考えたら、眠ねむくなったからぐうぐう寝ねてしまった。あくる日は思う仔細しさいがあるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本竪たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。おれは、控所ひかえじょへはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握にぎって来た。おれは膏あぶらっ手だから、開けてみると一銭五厘が汗あせをかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑めいわくでしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱ひじを突ついて、あの盤台面ばんだいづらをおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰だれにも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎なぞをかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬しのぎを削けずってる真中まんなかへ出て堂々とおれの肩かたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
 おれは教頭に向むかって、まだ誰にも話さないが、これから山嵐と談判するつもりだと云ったら、赤シャツは大いに狼狽ろうばいして、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕ぼくは堀田ほった君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は学校に騒動そうどうを起すつもりで来たんじゃなかろうと妙みょうに常識をはずれた質問をするから、当あたり前まえです、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、学校の方でも困るでしょうと云った。すると赤シャツはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼いらいに及およぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなにあなたが迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念を押おした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。しかもこのおれを疑ぐってる。憚はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
 ところへ両隣りょうどなりの机の所有主も出校したんで、赤シャツは早々自分の席へ帰って行った。赤シャツは歩あるき方から気取ってる。部屋の中を往来するのでも、音を立てないように靴くつの底をそっと落おとす。音を立てないであるくのが自慢じまんになるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒どろぼうの稽古けいこじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭らっぱがなった。山嵐はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛でかけた。
 授業の都合つごうで一時間目は少し後おくれて、控所へ帰ったら、ほかの教師はみんな机を控えて話をしている。山嵐もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻ちこくしたんだ。おれの顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰金ばっきんを出したまえと云った。おれは机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達せんだって通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上に掃はき返した。おや山嵐の癖くせにどこまでも奢る気だな。
「冗談じゃない本当だ。おれは君に氷水を奢られる因縁いんえんがないから、出すんだ。取らない法があるか」
「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」
「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」
 山嵐は冷然とおれの顔を見てふんと云った。赤シャツの依頼がなければ、ここで山嵐の卑劣ひれつをあばいて大喧嘩をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤まっかになってるのにふんという理窟りくつがあるものか。
「氷水の代は受け取るから、下宿は出てくれ」
「一銭五厘受け取ればそれでいい。下宿を出ようが出まいがおれの勝手だ」
「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主ていしゅが来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝けさあすこへ寄って詳くわしい話を聞いてきたんだ」
 おれには山嵐の云う事が何の意味だか分らない。
「亭主が君に何を話したんだか、おれが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持て余あまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭ふかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
「おれが、いつ下宿の女房に足を拭かせた」
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一幅ぷく売りゃ、すぐ浮ういてくるって云ってたぜ」

976 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:34.89 ID:a78fb40403-ed39-90a3
八日目には七時頃から下宿を出て、まずゆるりと湯に入って、それから町で鶏卵けいらんを八つ買った。これは下宿の婆さんの芋責いもぜめに応ずる策である。その玉子を四つずつ左右の袂たもとへ入れて、例の赤手拭あかてぬぐいを肩かたへ乗せて、懐手ふところでをしながら、枡屋ますやの楷子段はしごだんを登って山嵐の座敷ざしきの障子をあけると、おい有望有望と韋駄天いだてんのような顔は急に活気を呈ていした。昨夜ゆうべまでは少し塞ふさぎの気味で、はたで見ているおれさえ、陰気臭いんきくさいと思ったくらいだが、この顔色を見たら、おれも急にうれしくなって、何も聞かない先から、愉快ゆかい愉快と云った。
「今夜七時半頃あの小鈴こすずと云う芸者が角屋へはいった」
「赤シャツといっしょか」
「いいや」
「それじゃ駄目だ」
「芸者は二人づれだが、――どうも有望らしい」
「どうして」
「どうしてって、ああ云う狡ずるい奴だから、芸者を先へよこして、後から忍んでくるかも知れない」
「そうかも知れない。もう九時だろう」
「今九時十二分ばかりだ」と帯の間からニッケル製の時計を出して見ながら云ったが「おい洋燈らんぷを消せ、障子へ二つ坊主頭が写ってはおかしい。狐きつねはすぐ疑ぐるから」
 おれは一貫張いっかんばりの机の上にあった置き洋燈らんぷをふっと吹きけした。星明りで障子だけは少々あかるい。月はまだ出ていない。おれと山嵐は一生懸命いっしょうけんめいに障子へ面かおをつけて、息を凝こらしている。チーンと九時半の柱時計が鳴った。
「おい来るだろうかな。今夜来なければ僕はもう厭いやだぜ」
「おれは銭のつづく限りやるんだ」
「銭っていくらあるんだい」
「今日までで八日分五円六十銭払った。いつ飛び出しても都合つごうのいいように毎晩勘定かんじょうするんだ」
「それは手廻しがいい。宿屋で驚いてるだろう」
「宿屋はいいが、気が放せないから困る」
「その代り昼寝ひるねをするだろう」
「昼寝はするが、外出が出来ないんで窮屈きゅうくつでたまらない」
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々てんもうかいかい疎そにして洩もらしちまったり、何かしちゃ、つまらないぜ」
「なに今夜はきっとくるよ。――おい見ろ見ろ」と小声になったから、おれは思わずどきりとした。黒い帽子ぼうしを戴いただいた男が、角屋の瓦斯燈を下から見上げたまま暗い方へ通り過ぎた。違っている。おやおやと思った。そのうち帳場の時計が遠慮えんりょなく十時を打った。今夜もとうとう駄目らしい。
 世間は大分静かになった。遊廓ゆうかくで鳴らす太鼓たいこが手に取るように聞きこえる。月が温泉ゆの山の後うしろからのっと顔を出した。往来はあかるい。すると、下しもの方から人声が聞えだした。窓から首を出す訳には行かないから、姿を突つき留める事は出来ないが、だんだん近づいて来る模様だ。からんからんと駒下駄こまげたを引き擦ずる音がする。眼を斜ななめにするとやっと二人の影法師かげぼうしが見えるくらいに近づいた。
「もう大丈夫だいじょうぶですね。邪魔じゃまものは追っ払ったから」正まさしく野だの声である。「強がるばかりで策がないから、仕様がない」これは赤シャツだ。「あの男もべらんめえに似ていますね。あのべらんめえと来たら、勇み肌はだの坊ぼっちゃんだから愛嬌あいきょうがありますよ」「増給がいやだの辞表を出したいのって、ありゃどうしても神経に異状があるに相違ない」おれは窓をあけて、二階から飛び下りて、思う様打ぶちのめしてやろうと思ったが、やっとの事で辛防しんぼうした。二人はハハハハと笑いながら、瓦斯燈の下を潜くぐって、角屋の中へはいった。
「おい」
「おい」
「来たぜ」
「とうとう来た」
「これでようやく安心した」
「野だの畜生、おれの事を勇み肌の坊っちゃんだと抜ぬかしやがった」
「邪魔物と云うのは、おれの事だぜ。失敬千万な」
 おれと山嵐は二人の帰路を要撃ようげきしなければならない。しかし二人はいつ出てくるか見当がつかない。山嵐は下へ行って今夜ことによると夜中に用事があって出るかも知れないから、出られるようにしておいてくれと頼たのんで来た。今思うと、よく宿のものが承知したものだ。大抵たいていなら泥棒どろぼうと間違えられるところだ。
 赤シャツの来るのを待ち受けたのはつらかったが、出て来るのをじっとして待ってるのはなおつらい。寝る訳には行かないし、始終障子の隙すきから睨めているのもつらいし、どうも、こうも心が落ちつかなくって、これほど難儀なんぎな思いをした事はいまだにない。いっその事角屋へ踏み込んで現場を取って抑おさえようと発議ほつぎしたが、山嵐は一言にして、おれの申し出を斥しりぞけた。自分共が今時分飛び込んだって、乱暴者だと云って途中とちゅうで遮さえぎられる。訳を話して面会を求めれば居ないと逃にげるか別室へ案内をする。不用意のところへ踏み込めると仮定したところで何十とある座敷のどこに居るか分るものではない、退屈でも出るのを待つより外に策はないと云うから、ようやくの事でとうとう朝の五時まで我慢がまんした。
 角屋から出る二人の影を見るや否や、おれと山嵐はすぐあとを尾つけた。一番汽車はまだないから、二人とも城下まであるかなければならない。温泉ゆの町をはずれると一丁ばかりの杉並木すぎなみきがあって左右は田圃たんぼになる。それを通りこすとここかしこに藁葺わらぶきがあって、畠はたけの中を一筋に城下まで通る土手へ出る。町さえはずれれば、どこで追いついても構わないが、なるべくなら、人家のない、杉並木で捕つらまえてやろうと、見えがくれについて来た。町を外はずれると急に馳かけ足あしの姿勢で、はやてのように後ろから、追いついた。何が来たかと驚ろいて振ふり向く奴を待てと云って肩に手をかけた。野だは狼狽ろうばいの気味で逃げ出そうという景色けしきだったから、おれが前へ廻って行手を塞ふさいでしまった。
「教頭の職を持ってるものが何で角屋へ行って泊とまった」と山嵐はすぐ詰なじりかけた。
「教頭は角屋へ泊って悪わるいという規則がありますか」と赤シャツは依然いぜんとして鄭寧ていねいな言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
「取締上とりしまりじょう不都合だから、蕎麦屋そばやや団子屋だんごやへさえはいってはいかんと、云うくらい謹直きんちょくな人が、なぜ芸者といっしょに宿屋へとまり込んだ」野だは隙を見ては逃げ出そうとするからおれはすぐ前に立ち塞がって「べらんめえの坊っちゃんた何だ」と怒鳴り付けたら、「いえ君の事を云ったんじゃないんです、全くないんです」と鉄面皮に言訳がましい事をぬかした。おれはこの時気がついてみたら、両手で自分の袂を握にぎってる。追っかける時に袂の中の卵がぶらぶらして困るから、両手で握りながら来たのである。おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へ擲たたきつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。野だはよっぽど仰天ぎょうてんした者と見えて、わっと言いながら、尻持しりもちをついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、打ぶつけるために袂へ入れてる訳ではない。ただ肝癪かんしゃくのあまりに、ついぶつけるともなしに打つけてしまったのだ。しかし野だが尻持を突いたところを見て始めて、おれの成功した事に気がついたから、こん畜生ちくしょう、こん畜生と云いながら残る六つを無茶苦茶に擲たたきつけたら、野だは顔中黄色になった。

977 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:33:55.64 ID:7e189f0f17-3648-90d3主
>>952
バルサン炊いとるけどやるとええんか?

978 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:36.14 ID:a78f620403-b572-4b2e
ここいらがいいだろうと船頭は船をとめて、錨いかりを卸した。幾尋いくひろあるかねと赤シャツが聞くと、六尋むひろぐらいだと云う。六尋ぐらいじゃ鯛たいはむずかしいなと、赤シャツは糸を海へなげ込んだ。大将鯛を釣る気と見える、豪胆ごうたんなものだ。野だは、なに教頭のお手際じゃかかりますよ。それになぎですからとお世辞を云いながら、これも糸を繰くり出して投げ入れる。何だか先に錘おもりのような鉛なまりがぶら下がってるだけだ。浮うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。おれには到底とうてい出来ないと見ていると、さあ君もやりたまえ糸はありますかと聞く。糸はあまるほどあるが、浮がありませんと云ったら、浮がなくっちゃ釣が出来ないのは素人しろうとですよ。こうしてね、糸が水底みずそこへついた時分に、船縁ふなべりの所で人指しゆびで呼吸をはかるんです、食うとすぐ手に答える。――そらきた、と先生急に糸をたぐり始めるから、何かかかったと思ったら何にもかからない、餌えがなくなってたばかりだ。いい気味きびだ。教頭、残念な事をしましたね、今のはたしかに大ものに違いなかったんですが、どうも教頭のお手際でさえ逃にげられちゃ、今日は油断ができませんよ。しかし逃げられても何ですね。浮と睨にらめくらをしている連中よりはましですね。ちょうど歯どめがなくっちゃ自転車へ乗れないのと同程度ですからねと野だは妙みような事ばかり喋舌しゃべる。よっぽど撲なぐりつけてやろうかと思った。おれだって人間だ、教頭ひとりで借り切った海じゃあるまいし。広い所だ。鰹かつおの一匹ぐらい義理にだって、かかってくれるだろうと、どぼんと錘と糸を抛ほうり込んでいい加減に指の先であやつっていた。
 しばらくすると、何だかぴくぴくと糸にあたるものがある。おれは考えた。こいつは魚に相違ない。生きてるものでなくっちゃ、こうぴくつく訳がない。しめた、釣れたとぐいぐい手繰たぐり寄せた。おや釣れましたかね、後世恐おそるべしだと野だがひやかすうち、糸はもう大概手繰り込んでただ五尺ばかりほどしか、水に浸ついておらん。船縁から覗のぞいてみたら、金魚のような縞しまのある魚が糸にくっついて、右左へ漾ただよいながら、手に応じて浮き上がってくる。面白い。水際から上げるとき、ぽちゃりと跳はねたから、おれの顔は潮水だらけになった。ようやくつらまえて、針をとろうとするがなかなか取れない。捕つらまえた手はぬるぬるする。大いに気味がわるい。面倒だから糸を振ふって胴どうの間まへ擲たたきつけたら、すぐ死んでしまった。赤シャツと野だは驚ろいて見ている。おれは海の中で手をざぶざぶと洗って、鼻の先へあてがってみた。まだ腥臭なまぐさい。もう懲こり懲ごりだ。何が釣れたって魚は握にぎりたくない。魚も握られたくなかろう。そうそう糸を捲いてしまった。
 一番槍いちばんやりはお手柄てがらだがゴルキじゃ、と野だがまた生意気を云うと、ゴルキと云うと露西亜ロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落しゃれた。そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。ゴルキが露西亜の文学者で、丸木が芝しばの写真師で、米のなる木が命の親だろう。一体この赤シャツはわるい癖くせだ。誰だれを捕つらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。云いうならフランクリンの自伝だとかプッシング、ツー、ゼ、フロントだとか、おれでも知ってる名を使うがいい。赤シャツは時々帝国文学とかいう真赤まっかな雑誌を学校へ持って来て難有ありがたそうに読んでいる。山嵐やまあらしに聞いてみたら、赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。帝国文学も罪な雑誌だ。
 それから赤シャツと野だは一生懸命いっしょうけんめいに釣っていたが、約一時間ばかりのうちに二人ふたりで十五六上げた。可笑おかしい事に釣れるのも、釣れるのも、みんなゴルキばかりだ。鯛なんて薬にしたくってもありゃしない。今日は露西亜文学の大当りだと赤シャツが野だに話している。あなたの手腕しゅわんでゴルキなんですから、私わたしなんぞがゴルキなのは仕方がありません。当り前ですなと野だが答えている。船頭に聞くとこの小魚は骨が多くって、まずくって、とても食えないんだそうだ。ただ肥料こやしには出来るそうだ。赤シャツと野だは一生懸命に肥料を釣っているんだ。気の毒の至りだ。おれは一匹ぴきで懲こりたから、胴の間へ仰向あおむけになって、さっきから大空を眺めていた。釣をするよりこの方がよっぽど洒落しゃれている。
 すると二人は小声で何か話し始めた。おれにはよく聞きこえない、また聞きたくもない。おれは空を見ながら清きよの事を考えている。金があって、清をつれて、こんな奇麗きれいな所へ遊びに来たらさぞ愉快だろう。いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。清は皺苦茶しわくちゃだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥はずかしい心持ちはしない。野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣りょううんかくへのろうが、到底寄り付けたものじゃない。おれが教頭で、赤シャツがおれだったら、やっぱりおれにへけつけお世辞を使って赤シャツを冷ひやかすに違いない。江戸っ子は軽薄けいはくだと云うがなるほどこんなものが田舎巡いなかまわりをして、私わたしは江戸っ子でげすと繰り返していたら、軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄の事だと田舎者が思うに極まってる。こんな事を考えていると、何だか二人がくすくす笑い出した。笑い声の間に何か云うが途切とぎれ途切れでとんと要領を得ない。
「え? どうだか……」「……全くです……知らないんですから……罪ですね」「まさか……」「バッタを……本当ですよ」
 おれは外の言葉には耳を傾かたむけなかったが、バッタと云う野だの語ことばを聴きいた時は、思わずきっとなった。野だは何のためかバッタと云う言葉だけことさら力を入れて、明瞭めいりょうにおれの耳にはいるようにして、そのあとをわざとぼかしてしまった。おれは動かないでやはり聞いていた。
「また例の堀田ほったが……」「そうかも知れない……」「天麩羅てんぷら……ハハハハハ」「……煽動せんどうして……」「団子だんごも?」
 言葉はかように途切れ途切れであるけれども、バッタだの天麩羅だの、団子だのというところをもって推し測ってみると、何でもおれのことについて内所話ないしょばなしをしているに相違ない。話すならもっと大きな声で話すがいい、また内所話をするくらいなら、おれなんか誘わなければいい。いけ好かない連中だ。バッタだろうが雪踏せっただろうが、非はおれにある事じゃない。校長がひとまずあずけろと云ったから、狸たぬきの顔にめんじてただ今のところは控ひかえているんだ。野だの癖に入らぬ批評をしやがる。毛筆けふででもしゃぶって引っ込んでるがいい。おれの事は、遅おそかれ早かれ、おれ一人で片付けてみせるから、差支さしつかえはないが、また例の堀田がとか煽動してとか云う文句が気にかかる。堀田がおれを煽動して騒動そうどうを大きくしたと云う意味なのか、あるいは堀田が生徒を煽動しておれをいじめたと云うのか方角がわからない。青空を見ていると、日の光がだんだん弱って来て、少しはひやりとする風が吹き出した。線香せんこうの烟けむりのような雲が、透すき徹とおる底の上を静かに伸のして行ったと思ったら、いつしか底の奥おくに流れ込んで、うすくもやを掛かけたようになった。
 もう帰ろうかと赤シャツが思い出したように云うと、ええちょうど時分ですね。今夜はマドンナの君にお逢あいですかと野だが云う。赤シャツは馬鹿ばかあ云っちゃいけない、間違いになると、船縁に身を倚もたした奴やつを、少し起き直る。エヘヘヘヘ大丈夫ですよ。聞いたって……と野だが振り返った時、おれは皿さらのような眼めを野だの頭の上へまともに浴びせ掛けてやった。野だはまぼしそうに引っ繰り返って、や、こいつは降参だと首を縮めて、頭を掻かいた。何という猪口才ちょこざいだろう。
 船は静かな海を岸へ漕こぎ戻もどる。君釣つりはあまり好きでないと見えますねと赤シャツが聞くから、ええ寝ねていて空を見る方がいいですと答えて、吸いかけた巻烟草まきたばこを海の中へたたき込んだら、ジュと音がして艪ろの足で掻き分けられた浪なみの上を揺ゆられながら漾ただよっていった。「君が来たんで生徒も大いに喜んでいるから、奮発ふんぱつしてやってくれたまえ」と今度は釣にはまるで縁故えんこもない事を云い出した。「あんまり喜んでもいないでしょう」「いえ、お世辞じゃない。全く喜んでいるんです、ね、吉川君」「喜んでるどころじゃない。大騒おおさわぎです」と野だはにやにやと笑った。こいつの云う事は一々癪しゃくに障さわるから妙だ。「しかし君注意しないと、険呑けんのんですよ」と赤シャツが云うから「どうせ険呑です。こうなりゃ険呑は覚悟かくごです」と云ってやった。実際おれは免職めんしょくになるか、寄宿生をことごとくあやまらせるか、どっちか一つにする了見でいた。「そう云っちゃ、取りつきどころもないが――実は僕も教頭として君のためを思うから云うんだが、わるく取っちゃ困る」「教頭は全く君に好意を持ってるんですよ。僕も及およばずながら、同じ江戸っ子だから、なるべく長くご在校を願って、お互たがいに力になろうと思って、これでも蔭ながら尽力じんりょくしているんですよ」と野だが人間並なみの事を云った。野だのお世話になるくらいなら首を縊くくって死んじまわあ。
「それでね、生徒は君の来たのを大変歓迎かんげいしているんだが、そこにはいろいろな事情があってね。君も腹の立つ事もあるだろうが、ここが我慢がまんだと思って、辛防しんぼうしてくれたまえ。決して君のためにならないような事はしないから」

979 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:03.78 ID:34e4668113-a388-3623
ここで解除したらどうなるやろうな

980 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:05.19 ID:940a8eadrD-041b-d4f8
20行も30行も対して差はないのに変なところで頭の悪さを見せるな

981 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:37.06 ID:15efb4f807-3d4e-32e7
野だは大嫌だいきらいだ。こんな奴やつは沢庵石たくあんいしをつけて海の底へ沈しずめちまう方が日本のためだ。赤シャツは声が気に食わない。あれは持前の声をわざと気取ってあんな優しいように見せてるんだろう。いくら気取ったって、あの面じゃ駄目だめだ。惚ほれるものがあったってマドンナぐらいなものだ。しかし教頭だけに野だよりむずかしい事を云いう。うちへ帰って、あいつの申し条を考えてみると一応もっとものようでもある。はっきりとした事は云わないから、見当がつきかねるが、何でも山嵐やまあらしがよくない奴だから用心しろと云うのらしい。それならそうとはっきり断言するがいい、男らしくもない。そうして、そんな悪わるい教師なら、早く免職めんしょくさしたらよかろう。教頭なんて文学士の癖くせに意気地いくじのないもんだ。蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫に極きまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。親切は親切、声は声だから、声が気に入らないって、親切を無にしちゃ筋が違ちがう。それにしても世の中は不思議なものだ、虫の好かない奴が親切で、気のあった友達が悪漢わるものだなんて、人を馬鹿ばかにしている。大方田舎いなかだから万事東京のさかに行くんだろう。物騒ぶっそうな所だ。今に火事が氷って、石が豆腐とうふになるかも知れない。しかし、あの山嵐が生徒を煽動するなんて、いたずらをしそうもないがな。一番人望のある教師だと云うから、やろうと思ったら大抵たいていの事は出来るかも知れないが、――第一そんな廻まわりくどい事をしないでも、じかにおれを捕つらまえて喧嘩けんかを吹き懸かけりゃ手数が省ける訳だ。おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。向むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
 ここへ来た時第一番に氷水を奢おごったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯ぱいしか飲まなかったから一銭五厘りんしか払はらわしちゃない。しかし一銭だろうが五厘だろうが、詐欺師さぎしの恩になっては、死ぬまで心持ちがよくない。あした学校へ行ったら、一銭五厘返しておこう。おれは清きよから三円借りている。その三円は五年経たった今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。清は今に返すだろうなどと、かりそめにもおれの懐中かいちゅうをあてにしてはいない。おれも今に返そうなどと他人がましい義理立てはしないつもりだ。こっちがこんな心配をすればするほど清の心を疑ぐるようなもので、清の美しい心にけちを付けると同じ事になる。返さないのは清を踏ふみつけるのじゃない、清をおれの片破かたわれと思うからだ。清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人から恵めぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。割前を出せばそれだけの事で済むところを、心のうちで難有ありがたいと恩に着るのは銭金で買える返礼じゃない。無位無冠でも一人前の独立した人間だ。独立した人間が頭を下げるのは百万両より尊たっといお礼と思わなければならない。
 おれはこれでも山嵐に一銭五厘奮発ふんぱつさせて、百万両より尊とい返礼をした気でいる。山嵐は難有ありがたいと思ってしかるべきだ。それに裏へ廻って卑劣ひれつな振舞ふるまいをするとは怪けしからん野郎やろうだ。あした行って一銭五厘返してしまえば借りも貸しもない。そうしておいて喧嘩をしてやろう。
 おれはここまで考えたら、眠ねむくなったからぐうぐう寝ねてしまった。あくる日は思う仔細しさいがあるから、例刻より早ヤ目に出校して山嵐を待ち受けた。ところがなかなか出て来ない。うらなりが出て来る。漢学の先生が出て来る。野だが出て来る。しまいには赤シャツまで出て来たが山嵐の机の上は白墨はくぼくが一本竪たてに寝ているだけで閑静かんせいなものだ。おれは、控所ひかえじょへはいるや否や返そうと思って、うちを出る時から、湯銭のように手の平へ入れて一銭五厘、学校まで握にぎって来た。おれは膏あぶらっ手だから、開けてみると一銭五厘が汗あせをかいている。汗をかいてる銭を返しちゃ、山嵐が何とか云うだろうと思ったから、机の上へ置いてふうふう吹いてまた握った。ところへ赤シャツが来て昨日は失敬、迷惑めいわくでしたろうと云ったから、迷惑じゃありません、お蔭で腹が減りましたと答えた。すると赤シャツは山嵐の机の上へ肱ひじを突ついて、あの盤台面ばんだいづらをおれの鼻の側面へ持って来たから、何をするかと思ったら、君昨日返りがけに船の中で話した事は、秘密にしてくれたまえ。まだ誰だれにも話しやしますまいねと云った。女のような声を出すだけに心配性な男と見える。話さない事はたしかである。しかしこれから話そうと云う心持ちで、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎なぞをかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬しのぎを削けずってる真中まんなかへ出て堂々とおれの肩かたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
 おれは教頭に向むかって、まだ誰にも話さないが、これから山嵐と談判するつもりだと云ったら、赤シャツは大いに狼狽ろうばいして、君そんな無法な事をしちゃ困る。僕ぼくは堀田ほった君の事について、別段君に何も明言した覚えはないんだから――君がもしここで乱暴を働いてくれると、僕は非常に迷惑する。君は学校に騒動そうどうを起すつもりで来たんじゃなかろうと妙みょうに常識をはずれた質問をするから、当あたり前まえです、月給をもらったり、騒動を起したりしちゃ、学校の方でも困るでしょうと云った。すると赤シャツはそれじゃ昨日の事は君の参考だけにとめて、口外してくれるなと汗をかいて依頼いらいに及およぶから、よろしい、僕も困るんだが、そんなにあなたが迷惑ならよしましょうと受け合った。君大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念を押おした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。しかもこのおれを疑ぐってる。憚はばかりながら男だ。受け合った事を裏へ廻って反古ほごにするようなさもしい了見りょうけんはもってるもんか。
 ところへ両隣りょうどなりの机の所有主も出校したんで、赤シャツは早々自分の席へ帰って行った。赤シャツは歩あるき方から気取ってる。部屋の中を往来するのでも、音を立てないように靴くつの底をそっと落おとす。音を立てないであるくのが自慢じまんになるもんだとは、この時から始めて知った。泥棒どろぼうの稽古けいこじゃあるまいし、当り前にするがいい。やがて始業の喇叭らっぱがなった。山嵐はとうとう出て来ない。仕方がないから、一銭五厘を机の上へ置いて教場へ出掛でかけた。
 授業の都合つごうで一時間目は少し後おくれて、控所へ帰ったら、ほかの教師はみんな机を控えて話をしている。山嵐もいつの間にか来ている。欠勤だと思ったら遅刻ちこくしたんだ。おれの顔を見るや否や今日は君のお蔭で遅刻したんだ。罰金ばっきんを出したまえと云った。おれは机の上にあった一銭五厘を出して、これをやるから取っておけ。先達せんだって通町とおりちょうで飲んだ氷水の代だと山嵐の前へ置くと、何を云ってるんだと笑いかけたが、おれが存外真面目まじめでいるので、つまらない冗談じょうだんをするなと銭をおれの机の上に掃はき返した。おや山嵐の癖くせにどこまでも奢る気だな。
「冗談じゃない本当だ。おれは君に氷水を奢られる因縁いんえんがないから、出すんだ。取らない法があるか」
「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」
「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」
 山嵐は冷然とおれの顔を見てふんと云った。赤シャツの依頼がなければ、ここで山嵐の卑劣ひれつをあばいて大喧嘩をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤まっかになってるのにふんという理窟りくつがあるものか。
「氷水の代は受け取るから、下宿は出てくれ」
「一銭五厘受け取ればそれでいい。下宿を出ようが出まいがおれの勝手だ」
「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主ていしゅが来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝けさあすこへ寄って詳くわしい話を聞いてきたんだ」
 おれには山嵐の云う事が何の意味だか分らない。
「亭主が君に何を話したんだか、おれが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持て余あまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭ふかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
「おれが、いつ下宿の女房に足を拭かせた」
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は懸物かけものを一幅ぷく売りゃ、すぐ浮ういてくるって云ってたぜ」

982 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:31:37.70 ID:1587379c17-a71e-a795
八日目には七時頃から下宿を出て、まずゆるりと湯に入って、それから町で鶏卵けいらんを八つ買った。これは下宿の婆さんの芋責いもぜめに応ずる策である。その玉子を四つずつ左右の袂たもとへ入れて、例の赤手拭あかてぬぐいを肩かたへ乗せて、懐手ふところでをしながら、枡屋ますやの楷子段はしごだんを登って山嵐の座敷ざしきの障子をあけると、おい有望有望と韋駄天いだてんのような顔は急に活気を呈ていした。昨夜ゆうべまでは少し塞ふさぎの気味で、はたで見ているおれさえ、陰気臭いんきくさいと思ったくらいだが、この顔色を見たら、おれも急にうれしくなって、何も聞かない先から、愉快ゆかい愉快と云った。
「今夜七時半頃あの小鈴こすずと云う芸者が角屋へはいった」
「赤シャツといっしょか」
「いいや」
「それじゃ駄目だ」
「芸者は二人づれだが、――どうも有望らしい」
「どうして」
「どうしてって、ああ云う狡ずるい奴だから、芸者を先へよこして、後から忍んでくるかも知れない」
「そうかも知れない。もう九時だろう」
「今九時十二分ばかりだ」と帯の間からニッケル製の時計を出して見ながら云ったが「おい洋燈らんぷを消せ、障子へ二つ坊主頭が写ってはおかしい。狐きつねはすぐ疑ぐるから」
 おれは一貫張いっかんばりの机の上にあった置き洋燈らんぷをふっと吹きけした。星明りで障子だけは少々あかるい。月はまだ出ていない。おれと山嵐は一生懸命いっしょうけんめいに障子へ面かおをつけて、息を凝こらしている。チーンと九時半の柱時計が鳴った。
「おい来るだろうかな。今夜来なければ僕はもう厭いやだぜ」
「おれは銭のつづく限りやるんだ」
「銭っていくらあるんだい」
「今日までで八日分五円六十銭払った。いつ飛び出しても都合つごうのいいように毎晩勘定かんじょうするんだ」
「それは手廻しがいい。宿屋で驚いてるだろう」
「宿屋はいいが、気が放せないから困る」
「その代り昼寝ひるねをするだろう」
「昼寝はするが、外出が出来ないんで窮屈きゅうくつでたまらない」
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々てんもうかいかい疎そにして洩もらしちまったり、何かしちゃ、つまらないぜ」
「なに今夜はきっとくるよ。――おい見ろ見ろ」と小声になったから、おれは思わずどきりとした。黒い帽子ぼうしを戴いただいた男が、角屋の瓦斯燈を下から見上げたまま暗い方へ通り過ぎた。違っている。おやおやと思った。そのうち帳場の時計が遠慮えんりょなく十時を打った。今夜もとうとう駄目らしい。
 世間は大分静かになった。遊廓ゆうかくで鳴らす太鼓たいこが手に取るように聞きこえる。月が温泉ゆの山の後うしろからのっと顔を出した。往来はあかるい。すると、下しもの方から人声が聞えだした。窓から首を出す訳には行かないから、姿を突つき留める事は出来ないが、だんだん近づいて来る模様だ。からんからんと駒下駄こまげたを引き擦ずる音がする。眼を斜ななめにするとやっと二人の影法師かげぼうしが見えるくらいに近づいた。
「もう大丈夫だいじょうぶですね。邪魔じゃまものは追っ払ったから」正まさしく野だの声である。「強がるばかりで策がないから、仕様がない」これは赤シャツだ。「あの男もべらんめえに似ていますね。あのべらんめえと来たら、勇み肌はだの坊ぼっちゃんだから愛嬌あいきょうがありますよ」「増給がいやだの辞表を出したいのって、ありゃどうしても神経に異状があるに相違ない」おれは窓をあけて、二階から飛び下りて、思う様打ぶちのめしてやろうと思ったが、やっとの事で辛防しんぼうした。二人はハハハハと笑いながら、瓦斯燈の下を潜くぐって、角屋の中へはいった。
「おい」
「おい」
「来たぜ」
「とうとう来た」
「これでようやく安心した」
「野だの畜生、おれの事を勇み肌の坊っちゃんだと抜ぬかしやがった」
「邪魔物と云うのは、おれの事だぜ。失敬千万な」
 おれと山嵐は二人の帰路を要撃ようげきしなければならない。しかし二人はいつ出てくるか見当がつかない。山嵐は下へ行って今夜ことによると夜中に用事があって出るかも知れないから、出られるようにしておいてくれと頼たのんで来た。今思うと、よく宿のものが承知したものだ。大抵たいていなら泥棒どろぼうと間違えられるところだ。
 赤シャツの来るのを待ち受けたのはつらかったが、出て来るのをじっとして待ってるのはなおつらい。寝る訳には行かないし、始終障子の隙すきから睨めているのもつらいし、どうも、こうも心が落ちつかなくって、これほど難儀なんぎな思いをした事はいまだにない。いっその事角屋へ踏み込んで現場を取って抑おさえようと発議ほつぎしたが、山嵐は一言にして、おれの申し出を斥しりぞけた。自分共が今時分飛び込んだって、乱暴者だと云って途中とちゅうで遮さえぎられる。訳を話して面会を求めれば居ないと逃にげるか別室へ案内をする。不用意のところへ踏み込めると仮定したところで何十とある座敷のどこに居るか分るものではない、退屈でも出るのを待つより外に策はないと云うから、ようやくの事でとうとう朝の五時まで我慢がまんした。
 角屋から出る二人の影を見るや否や、おれと山嵐はすぐあとを尾つけた。一番汽車はまだないから、二人とも城下まであるかなければならない。温泉ゆの町をはずれると一丁ばかりの杉並木すぎなみきがあって左右は田圃たんぼになる。それを通りこすとここかしこに藁葺わらぶきがあって、畠はたけの中を一筋に城下まで通る土手へ出る。町さえはずれれば、どこで追いついても構わないが、なるべくなら、人家のない、杉並木で捕つらまえてやろうと、見えがくれについて来た。町を外はずれると急に馳かけ足あしの姿勢で、はやてのように後ろから、追いついた。何が来たかと驚ろいて振ふり向く奴を待てと云って肩に手をかけた。野だは狼狽ろうばいの気味で逃げ出そうという景色けしきだったから、おれが前へ廻って行手を塞ふさいでしまった。
「教頭の職を持ってるものが何で角屋へ行って泊とまった」と山嵐はすぐ詰なじりかけた。
「教頭は角屋へ泊って悪わるいという規則がありますか」と赤シャツは依然いぜんとして鄭寧ていねいな言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
「取締上とりしまりじょう不都合だから、蕎麦屋そばやや団子屋だんごやへさえはいってはいかんと、云うくらい謹直きんちょくな人が、なぜ芸者といっしょに宿屋へとまり込んだ」野だは隙を見ては逃げ出そうとするからおれはすぐ前に立ち塞がって「べらんめえの坊っちゃんた何だ」と怒鳴り付けたら、「いえ君の事を云ったんじゃないんです、全くないんです」と鉄面皮に言訳がましい事をぬかした。おれはこの時気がついてみたら、両手で自分の袂を握にぎってる。追っかける時に袂の中の卵がぶらぶらして困るから、両手で握りながら来たのである。おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へ擲たたきつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。野だはよっぽど仰天ぎょうてんした者と見えて、わっと言いながら、尻持しりもちをついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、打ぶつけるために袂へ入れてる訳ではない。ただ肝癪かんしゃくのあまりに、ついぶつけるともなしに打つけてしまったのだ。しかし野だが尻持を突いたところを見て始めて、おれの成功した事に気がついたから、こん畜生ちくしょう、こん畜生と云いながら残る六つを無茶苦茶に擲たたきつけたら、野だは顔中黄色になった。

983 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:14.52 ID:32173e10M5-3f7b-1851
>>928

BBS_JP_CHECK=1
もしくは
BBS_JP_CHECK=200

984 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:28.85 ID:7e6a484507-cf85-fd85
埋まったら次スレか?

985 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:32:25.98 ID:25f7bd65d0-b62a-d1fa

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さんGぼっち・ざ・ろっく!部
1 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:03.54 ID:B+RNrLzg
1日ごとにCAPTCHAを記入する必要があります
https://hayabusa6.3chan.jp/auth/
こちらで認証したトリップを名前欄に!#○○○など入力し1回書き込みを行ってください
2回目以降は必要ありません

避難所さんUぼっち・ざ・ろっく!部🎸
http://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/liveuranus/1674615974/

!jien
!live
!SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on
!SETTING:BBS_RAWIP_CHECK=checked
※実況スレ
※自演防止@jien
BBS_PROXY_CHECK=on
BBS_RAWIP_CHECK=checked=
※バルサン(未認証時書込禁止)
2 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:24.83 ID:84837a3009-15a2-56fd[3/7] 主[3/9]
これでいい?
3 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:23.27 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[2/3]
てす
4 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:55.53 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[3]
onって今も有効なんやっけ?
5 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:44:03.69 ID:52727ea7M1-4213-bde0[2]
!バルサン コマンドが必要やないんか?
6 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:26.99 ID:84837a3009-15a2-56fd[4] 主[4]
バルサン入ってるしVPNは弾かれるはず
7 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:41.44 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[2]
てす
8 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:46:09.19 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[1/2]
!バルサンが必要なんやないの
9 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:48:59.51 ID:84837a3009-15a2-56fd[5] 主[5]
バルサン効いてないかコマンドくれ
1 :>>11
10 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:47.39 ID:6e70ae0fa1-cd97-e4eb
試しに無しでブラウザから書いたらバルサン効いとったわ
11 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:51.00 ID:a3c90fad15-c853-64d4
>>9
!バルサン
ビックリマークは半角や
12 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:50:42.19 ID:84837a3009-15a2-56fd[6] 主[6]
!バルサン
どう?
13 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:42.37 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[2]
行けたんじゃないか
まぁみんなCookieに認証残ってるやろからテストが面倒やろな🙄
14 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:46.51 ID:a3c90fad15-c853-64d4[2]
ええぞ追加されたぞ
15 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:52:39.55 ID:34880cae03-c44b-c8cd
てすと
16 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:15.85 ID:84837a3009-15a2-56fd[7/7] 主[7]
BBS_RAWIP_●CHECK=checked
これいらんのか?なんや
17 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:45.21 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[1/2]
てす
18 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:54:32.85 ID:7eeef824H7-2939-06d6
テスト
19 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:07.51 ID:84837a3009-15a2-56fd 主
ちょっと実験室行ってくるわ
20 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:15.56 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[1/3]
>>16
これだけでも承認送らんとエラーで書けんかったわ
21 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:56:48.97 ID:7e15139807-0d79-78e4
佐藤愛子好き
22 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:57:17.19 ID:8441e1b719-6523-a5d2
バルサンが実際効くのかは未知数なんよな
まあ様子見か
23 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:37.91 ID:52727ea7M1-4213-bde0[1/2]
>>16
ワイもよく分かっとらんのよな
24 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:38.79 ID:84837a3009-15a2-56fd[2] 主[2]
わかった完全に理解したバルサンだけでいいわ
あとで避難所に修正テンプレ貼っとく
25 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:32.12 ID:0ebf7cf7rD-e593-04f3
虹夏ちゃんがギターとベースでドラム叩いてるgifください
1 :>>29
26 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:53.67 ID:6aba0badp9-ef0d-78e4
そういや今日からまた物販会場やってんだっけ
1 :>>37
27 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:10:25.35 ID:84837a3009-15a2-56fd[8] 主[8]
バルサン入れるとjien要らないみたいだね
28 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:14:01.54 ID:345f700b03-f42f-06d6
これバルサンに期待していいやつ?
https://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/livegalileo/1674867119/
29 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:15:13.08 ID:8441e1b719-6523-5f95[2]
>>25
https://i.imgur.com/o7VgKQs.gif
30 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:17:27.04 ID:a3137ab115-e65d-7f33
てすと
31 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:09.07 ID:84837a3009-15a2-56fd[9] 主[9]
!●live
!●バルサン
!●SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on

これだけでいいわ完全に理解した
32 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:30.14 ID:6e70ae0fa1-c2a1-e4eb[2]
効いてて草
781 それでも動く名無し@転載禁止[sage] 2023/01/28(土) 10:13:31.42 ID:zZqfW47Y17
殺すぞゴミ屑
もうほんま許さないからな
https://i.imgur.com/mykzi8W.png
33 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:20:10.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[2]
すまんバルサンってキャプチャのこと?
34 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:22:18.24 ID:7a8135cbd0-4a80-193f
バルサンだけで平和になるなら入れ得やな
35 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:26:37.79 ID:6f084932aC-5a37-ab59
test
36 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:28:03.97 ID:53804a32aE-f45b-76e9
テスト
37 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:12.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[3]
>>26
グッズ再入荷して再度抽選入場だったっけか
38 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:22.69 ID:728bff4306-10d7-96f6
てす
39 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:31:20.31 ID:84837a3009-15a2-56fd[10] 主[10]
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thread.js ver 02.1.1 2023/01/28
read.cgi ver 06.0.0 2015/11

986 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:35.25 ID:940a8eadrD-041b-d4f8
ガチギレするとレスバすらしないのほんと草

987 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:36.57 ID:ffebe97f07-0f38-f190
なんでそこまでして埋めたいんやw

988 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:35:01.38 ID:a31355b115-de3f-be9e
>>963
もうずっと張ってるで
電話野郎はチビだから普通に殴っても蹴っても反撃してこないから安心やね😊

989 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:35:04.76 ID:1270ae0fa1-74b3-f7a8
わざわざAA表示効かないコピペ持ってくんなよ

990 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:35:23.97 ID:a3137ab115-e65d-7f33
いやーやっぱ3ちゃんは有能やなぁ

991 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:35:26.11 ID:7e189f0f17-3648-90d3主
!SETTING:BBS_PROXY_CHECK:feature
!SETTING:BBS_JP_CHECK=1

992 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:27.14 ID:4050b7f409-9084-127d
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994 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:30.40 ID:a78f5a0403-e439-2f6c

3ちゃんねる★スマホ版★■掲示板に戻る■全部1-最新50スレ一覧人気レス一覧画像一覧▼
さんGぼっち・ざ・ろっく!部
1 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:03.54 ID:B+RNrLzg
1日ごとにCAPTCHAを記入する必要があります
https://hayabusa6.3chan.jp/auth/
こちらで認証したトリップを名前欄に!#○○○など入力し1回書き込みを行ってください
2回目以降は必要ありません

避難所さんUぼっち・ざ・ろっく!部🎸
http://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/liveuranus/1674615974/

!jien
!live
!SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on
!SETTING:BBS_RAWIP_CHECK=checked
※実況スレ
※自演防止@jien
BBS_PROXY_CHECK=on
BBS_RAWIP_CHECK=checked=
※バルサン(未認証時書込禁止)
2 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:24.83 ID:84837a3009-15a2-56fd[3/7] 主[3/9]
これでいい?
3 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:23.27 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[2/3]
てす
4 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:55.53 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[3]
onって今も有効なんやっけ?
5 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:44:03.69 ID:52727ea7M1-4213-bde0[2]
!バルサン コマンドが必要やないんか?
6 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:26.99 ID:84837a3009-15a2-56fd[4] 主[4]
バルサン入ってるしVPNは弾かれるはず
7 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:41.44 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[2]
てす
8 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:46:09.19 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[1/2]
!バルサンが必要なんやないの
9 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:48:59.51 ID:84837a3009-15a2-56fd[5] 主[5]
バルサン効いてないかコマンドくれ
1 :>>11
10 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:47.39 ID:6e70ae0fa1-cd97-e4eb
試しに無しでブラウザから書いたらバルサン効いとったわ
11 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:51.00 ID:a3c90fad15-c853-64d4
>>9
!バルサン
ビックリマークは半角や
12 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:50:42.19 ID:84837a3009-15a2-56fd[6] 主[6]
!バルサン
どう?
13 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:42.37 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[2]
行けたんじゃないか
まぁみんなCookieに認証残ってるやろからテストが面倒やろな🙄
14 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:46.51 ID:a3c90fad15-c853-64d4[2]
ええぞ追加されたぞ
15 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:52:39.55 ID:34880cae03-c44b-c8cd
てすと
16 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:15.85 ID:84837a3009-15a2-56fd[7/7] 主[7]
BBS_RAWIP_●CHECK=checked
これいらんのか?なんや
17 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:45.21 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[1/2]
てす
18 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:54:32.85 ID:7eeef824H7-2939-06d6
テスト
19 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:07.51 ID:84837a3009-15a2-56fd 主
ちょっと実験室行ってくるわ
20 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:15.56 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[1/3]
>>16
これだけでも承認送らんとエラーで書けんかったわ
21 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:56:48.97 ID:7e15139807-0d79-78e4
佐藤愛子好き
22 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:57:17.19 ID:8441e1b719-6523-a5d2
バルサンが実際効くのかは未知数なんよな
まあ様子見か
23 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:37.91 ID:52727ea7M1-4213-bde0[1/2]
>>16
ワイもよく分かっとらんのよな
24 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:38.79 ID:84837a3009-15a2-56fd[2] 主[2]
わかった完全に理解したバルサンだけでいいわ
あとで避難所に修正テンプレ貼っとく
25 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:32.12 ID:0ebf7cf7rD-e593-04f3
虹夏ちゃんがギターとベースでドラム叩いてるgifください
1 :>>29
26 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:53.67 ID:6aba0badp9-ef0d-78e4
そういや今日からまた物販会場やってんだっけ
1 :>>37
27 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:10:25.35 ID:84837a3009-15a2-56fd[8] 主[8]
バルサン入れるとjien要らないみたいだね
28 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:14:01.54 ID:345f700b03-f42f-06d6
これバルサンに期待していいやつ?
https://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/livegalileo/1674867119/
29 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:15:13.08 ID:8441e1b719-6523-5f95[2]
>>25
https://i.imgur.com/o7VgKQs.gif
30 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:17:27.04 ID:a3137ab115-e65d-7f33
てすと
31 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:09.07 ID:84837a3009-15a2-56fd[9] 主[9]
!●live
!●バルサン
!●SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on

これだけでいいわ完全に理解した
32 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:30.14 ID:6e70ae0fa1-c2a1-e4eb[2]
効いてて草
781 それでも動く名無し@転載禁止[sage] 2023/01/28(土) 10:13:31.42 ID:zZqfW47Y17
殺すぞゴミ屑
もうほんま許さないからな
https://i.imgur.com/mykzi8W.png
33 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:20:10.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[2]
すまんバルサンってキャプチャのこと?
34 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:22:18.24 ID:7a8135cbd0-4a80-193f
バルサンだけで平和になるなら入れ得やな
35 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:26:37.79 ID:6f084932aC-5a37-ab59
test
36 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:28:03.97 ID:53804a32aE-f45b-76e9
テスト
37 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:12.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[3]
>>26
グッズ再入荷して再度抽選入場だったっけか
38 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:22.69 ID:728bff4306-10d7-96f6
てす
39 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:31:20.31 ID:84837a3009-15a2-56fd[10] 主[10]
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thread.js ver 02.1.1 2023/01/28
read.cgi ver 06.0.0 2015/11

995 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:36:08.61 ID:15ef74f807-4921-489c
てす

996 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:31.55 ID:15ef9af807-c963-0867
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997 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:32.28 ID:1587379c17-b76c-6534
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998 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:33.83 ID:15ef5ef807-529e-9a1d

3ちゃんねる★スマホ版★■掲示板に戻る■全部1-最新50スレ一覧人気レス一覧画像一覧▼
さんGぼっち・ざ・ろっく!部
1 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:03.54 ID:B+RNrLzg
1日ごとにCAPTCHAを記入する必要があります
https://hayabusa6.3chan.jp/auth/
こちらで認証したトリップを名前欄に!#○○○など入力し1回書き込みを行ってください
2回目以降は必要ありません

避難所さんUぼっち・ざ・ろっく!部🎸
http://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/liveuranus/1674615974/

!jien
!live
!SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on
!SETTING:BBS_RAWIP_CHECK=checked
※実況スレ
※自演防止@jien
BBS_PROXY_CHECK=on
BBS_RAWIP_CHECK=checked=
※バルサン(未認証時書込禁止)
2 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:39:24.83 ID:84837a3009-15a2-56fd[3/7] 主[3/9]
これでいい?
3 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:23.27 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[2/3]
てす
4 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:41:55.53 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[3]
onって今も有効なんやっけ?
5 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:44:03.69 ID:52727ea7M1-4213-bde0[2]
!バルサン コマンドが必要やないんか?
6 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:26.99 ID:84837a3009-15a2-56fd[4] 主[4]
バルサン入ってるしVPNは弾かれるはず
7 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:45:41.44 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[2]
てす
8 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:46:09.19 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[1/2]
!バルサンが必要なんやないの
9 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:48:59.51 ID:84837a3009-15a2-56fd[5] 主[5]
バルサン効いてないかコマンドくれ
1 :>>11
10 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:47.39 ID:6e70ae0fa1-cd97-e4eb
試しに無しでブラウザから書いたらバルサン効いとったわ
11 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:49:51.00 ID:a3c90fad15-c853-64d4
>>9
!バルサン
ビックリマークは半角や
12 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:50:42.19 ID:84837a3009-15a2-56fd[6] 主[6]
!バルサン
どう?
13 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:42.37 ID:7e8eeecf17-6834-ff35[2]
行けたんじゃないか
まぁみんなCookieに認証残ってるやろからテストが面倒やろな🙄
14 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:51:46.51 ID:a3c90fad15-c853-64d4[2]
ええぞ追加されたぞ
15 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:52:39.55 ID:34880cae03-c44b-c8cd
てすと
16 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:15.85 ID:84837a3009-15a2-56fd[7/7] 主[7]
BBS_RAWIP_●CHECK=checked
これいらんのか?なんや
17 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:53:45.21 ID:7249f7f316-e6c1-a07b[1/2]
てす
18 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:54:32.85 ID:7eeef824H7-2939-06d6
テスト
19 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:07.51 ID:84837a3009-15a2-56fd 主
ちょっと実験室行ってくるわ
20 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:55:15.56 ID:d2cba7d11C-c2a1-e4eb[1/3]
>>16
これだけでも承認送らんとエラーで書けんかったわ
21 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:56:48.97 ID:7e15139807-0d79-78e4
佐藤愛子好き
22 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 09:57:17.19 ID:8441e1b719-6523-a5d2
バルサンが実際効くのかは未知数なんよな
まあ様子見か
23 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:37.91 ID:52727ea7M1-4213-bde0[1/2]
>>16
ワイもよく分かっとらんのよな
24 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:01:38.79 ID:84837a3009-15a2-56fd[2] 主[2]
わかった完全に理解したバルサンだけでいいわ
あとで避難所に修正テンプレ貼っとく
25 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:32.12 ID:0ebf7cf7rD-e593-04f3
虹夏ちゃんがギターとベースでドラム叩いてるgifください
1 :>>29
26 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:03:53.67 ID:6aba0badp9-ef0d-78e4
そういや今日からまた物販会場やってんだっけ
1 :>>37
27 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:10:25.35 ID:84837a3009-15a2-56fd[8] 主[8]
バルサン入れるとjien要らないみたいだね
28 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:14:01.54 ID:345f700b03-f42f-06d6
これバルサンに期待していいやつ?
https://hayabusa4.3chan.jp/test/read.cgi/livegalileo/1674867119/
29 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:15:13.08 ID:8441e1b719-6523-5f95[2]
>>25
https://i.imgur.com/o7VgKQs.gif
30 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:17:27.04 ID:a3137ab115-e65d-7f33
てすと
31 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:09.07 ID:84837a3009-15a2-56fd[9] 主[9]
!●live
!●バルサン
!●SETTING:BBS_PROXY_CHECK:on

これだけでいいわ完全に理解した
32 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:19:30.14 ID:6e70ae0fa1-c2a1-e4eb[2]
効いてて草
781 それでも動く名無し@転載禁止[sage] 2023/01/28(土) 10:13:31.42 ID:zZqfW47Y17
殺すぞゴミ屑
もうほんま許さないからな
https://i.imgur.com/mykzi8W.png
33 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:20:10.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[2]
すまんバルサンってキャプチャのこと?
34 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:22:18.24 ID:7a8135cbd0-4a80-193f
バルサンだけで平和になるなら入れ得やな
35 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:26:37.79 ID:6f084932aC-5a37-ab59
test
36 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:28:03.97 ID:53804a32aE-f45b-76e9
テスト
37 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:12.05 ID:a3137ab115-e65d-7f33[3]
>>26
グッズ再入荷して再度抽選入場だったっけか
38 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:29:22.69 ID:728bff4306-10d7-96f6
てす
39 : それでも動く名無し@転載禁止
2023/01/28(土) 10:31:20.31 ID:84837a3009-15a2-56fd[10] 主[10]
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999 それでも動く名無し@転載禁止 2023/01/28(土) 10:34:34.39 ID:40504ef409-d01a-5e2d
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