6 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2017/07/05(水) 15:07:56.06 ID:NTOxmFpR0
「臭い。女の股ぐらのにおいがする」
いつも通り準備を済ませて待っていた裕明に、男は言った。
「それに、ずいぶんと顔色がいい。良いことでもあったのかな。新しい友人が出来たとか」
男の怒りの理由が分からず、戸惑っていた裕明の目が大きく見開かれると、
「ビンゴだ」
と男の口元が歪んだ。笑っているようで、笑っていない。足がすくんで動けなくなった裕明の横を通り過ぎ、男はソファに深く腰掛けた。
「……怒っているんですか」
「いいや。きみの友人に興味が湧いただけだよ」
男がマッチを擦る。火花が散った。
「そうだ、ここにその人間も呼びたまえ。そして私の目の前でまぐわって見せなさい、とびきりいやらしく」
男の言葉が裕明の心臓を焼いた。焼け付いた心臓は血を吐き、今まで一度も口答えしなかった裕明に「嫌です。絶対に嫌だ」と言わせていた。
「僕を好きにしたいなら、ちゃんと僕を理解して」
「理解?」
「愛して。大事にしてよ」
「……私はきみになんでも与えた。この数年きみを自分なりに大事にしてしたつもりだが、まだ不満なのかね」
「僕は何もいらない。だから愛して」
「やれやれ、駄々っ子だな」
「愛して」
「話にならない。愛だと?抗鬱剤でも処方してもらいたいのか?まったく、きみには失望した」
男はため息をついた。シガーの煙が男と裕明のあいだに白い壁を作る。
「以前のきみは神秘的だった」
「……」
「まるで深淵を覗くようだったよ。ゴミ溜めの中で男に股を開いているのに、自分というものを少しも見せない。
しかし、愛されたいなどと口にしたきみは、他の人間と変わらない、ただの俗物に成り下がった。思春期だか反抗期だか知らないがね、ヒステリーを起こすなら他所でやりなさい」
「僕は、あなたのことが、わからない」
裕明は怒りをぐっと堪えて声を絞り出した。
「私も同じだ。選びなさい。ここにいるか、今すぐ出て行くか」
裕明はマンションを飛び出した。
長いあいだ、暗闇の中を一人で走っていた。息が切れ、動けなくなり、道端に座り込んだ。ポケットの中に入れっぱなしだった携帯は、バッテリーが切れかけている。震える手で電話帳を開き、唯一の友達にダイヤルしている途中、バッテリーは完全に無くなった。
……
何時間経ったのか分からない。
よろよろとマンションに戻ると、男が満足げに笑った。
「それでいい」
と言って。