455 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2018/11/26(月) 21:49:14.42 ID:JJ/7/Mtk0
「子供の世話」というものは、とにかく手のかかるものである。
この歳になって僕は、そのことを身をもって知った。
僕が思うに、子供とは、頭が悪い癖に行動力だけはあり、本能と感情だけで暴れまわり、人の常識が通用しない。
つまりは、人語を解する獣である。
こんなものの面倒をみるなど、僕一人の手に余る。
さて、近年、核家族・共働きの家庭が増え、育児が世の母親に与える負担は増大するばかりである。
元来、子育ては一族や村などコミュニティの中で行われていたはずだ。
そんな大仕事を母親だからという理由で若い素人の女だけにまかせて良いものだろうか?
良くない。
きっと気が狂ってしまう。
そうでなければ殺してしまう。
僕も、よくもまあ今までこいつをナイフでメッタ刺しにして殺さなかったものだと感心しているところだ。
だけどもうそろそろ限界だ。
限界なので、やめることにする。
――僕は、たかひろくん係を、やめる。
一言ずつ区切って大きな声で宣言した。
とても素晴らしい気分になった。
「ひろあきくん!! どうしてそんなことを言うナリか!? 人は人を愛さなければならない」
顎の脂肪をぶるぶる震わせながら、たかひろくんが掴みかかってきた。
黙れ畜生。人語を喋るな。貴様のようなガキに愛のなんたるかが分かってたまるか。
もはや触れることすら苦痛である。たかひろくんの胸を思いっきり突き飛ばした。
「ひどいナリひろあきくん! 当職は君に人を傷付けるのではなく人を助ける人間になってほしい」
突き飛ばされたたかひろくんは股を広げて尻餅をつき、涙目になった。
彼の股間の小さなペニスを見ても、僕はなんの感情も沸き起こらなかったし、彼の言葉を聞いても僕の心には響かなかった。
僕にとって、もはや彼はヒトではなく、したがって彼を助ける義理はない。
「これ以上息子を虐めんでくれ」
会計士の泣き顔から、僕は目をそらした。
初代たかひろくん係だった彼のアナルはガバガバになってしまい、ストッパーがなければとても実用に耐えられるものではない。
僕は彼を手伝えなかったし、彼は僕を手伝えなかった。
今更なにかを思うことはない。もう終わったことだ。
「お別れだな」
事務所から出るときに、同僚の弁護士とすれ違った。
こいつは最後まで僕を手伝わなかった。
そのくせ毎晩のように僕の体を貪るのだ。
昨夜の情事を思い出して乳首が熱くなる。
――だけどもうおしまい。
ビルを出ると、秋の風が僕の乳首の火照りを優しく冷ましてくれた。
あいいつが僕の「育児」を、例えば話題のイクメンのように手伝ってくれたら、この結末も変わったのかもしれない。
僕は最後にそう考えた。
こうして僕はクロスを辞めた。
僕らはまるで離婚した夫婦の家庭のようにバラバラになった。
たかひろくんは会計士に引き取られた。
高齢の彼にはたかひろくん係は酷だろう。もう長くないかもしれない。
少しだけ嫌な気持ちになったが、自分がたかひろくん係になるのはまっぴらごめんなので、僕はそこで考えるのをやめた。
近年、ライフスタイルの変化により、母親一人での育児は限界を迎えつつある。
父親の育児への参加を求める声が大きくなっているものの、父親の育児休暇取得率は伸び悩んでいるのが現状である――――。