15 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2017/01/09(月) 18:50:01.34 ID:w0Fd3AQ40
「お前が殺したかったのって、俺?」
僕は頷いた。「なんで?」と言う彼の声は震えていた。
「そんなに俺のこと嫌い?」
「違うよ。大好きなんだ」
Yくんは顔を歪め、しばらく黙っていたが、「……やっぱお前頭おかしーわ」と呟いた。
「さっさと帰れよ。殺されたくなんかないだろ」
本気でYくんを殺そうと思っていた。全て奪って僕のものにしたら、少しは満たされるかもしれない。Yくんの身体をばりばり食べ尽くして、血も肉も骨も全て僕の中に取り込みたい。
そうしたら、Yくんは僕のものになってくれるんじゃないだろうか。僕は狂気に心臓を食い破られている。
しかし、彼は逃げるどころか、肩を掴んで唇を触れ合わせた。彼は微笑んでいる。
「俺、初めて会ったとき、絶対こいつは俺と同じ生き物だって思ったんだ。でも、本当のことは分からなかった。でも今分かった」
僕は黙っていた。
「お前といると一人じゃないって思える。だってお前、頭おかしいもん」
俺とおんなじだよ、と彼は僕の頭を撫でた。
「なあ、お前が死んだら犯してもいい?」
「いいよ。全部食べてくれるなら」
僕は、Yくんを殺せなかった。彼を殺してしまったら、その手のひらが僕の首を掴んで、快楽と共に絞め殺してくれる日は、絶対に来ない。
Mさんに電話をかけようか迷ったが、やめた。結末は既に知っている筈だ。僕は踊っていただけなのだから。
あの人は僕と"偶然"出会い、Kと引き合わせ、僕の中の狂気を芽吹かせた。
もう連絡は来ないかもしれない。双頭の蛇はもう片方の首を嚙み殺し、ひとつになった。僕は完成したのだ。狂気を孕んだ怪物として。未完成だった若者はもうどこにもいない。
メモリから彼の番号を削除して、携帯を放り投げる。そしてYくんに向き直り、今までで一番激しく肉体を貪り合った。涙が溢れてYくんの肩が濡れる。
僕はいつかYくんに殺してもらえるだろう。そのとき至上の悦楽を得ることを、僕はもう知っている。