4 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/11/15(火) 19:39:02 ID:Z8fISKAk
約束が果たされたのはそれから四ヵ月後、引っ越しを終えた春だった。
その日はよく晴れていた。車を出すと言ったが彼は拒んだ。自分の回復を知るために、電車に乗ってみたいと。窓から見える桜が横に流れていく。
東光院の緑の中で彼は言った。
「さっき花屋に行った時思ったんだけど、花ってきれいなんだね。ただのひらひらした植物かと思ってた」
墓前にしゃがみ、彼は刻まれたあのひとの名前をなぞりながら何かを言っていた。
からさん。あなたは僕の居場所でした。あなたを見つめていた日々は本当に楽しかった。でも、もうお別れです。今までありがとう……さようなら。
その呟きは鳥の鳴き声と混ざって空気に溶ける。
すべて大丈夫だという気がした。なにが大丈夫なのか俺には分からないけれど、なにもかも大丈夫なのだという確信があった。これから先、俺たちはどこへだって行ける。
帰り道、駅のホームの白いベンチで、なにも話さずふたり座っていた。彼の手を握った。見上げた空の色は透き通っている。春の匂いと日差しが眩しかった。