3 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/11/15(火) 19:36:46 ID:Z8fISKAk
「僕もそういう気持ちだった。きみが僕に愛想を尽かして、二度と会いに来てくれないんじゃないかと、そればっかり考えてた」
責めるような目つきじゃない。まるで捨てられた犬みたいに、さみしそうだった。
「……悪かったよ」
「ううん。嫌味ったらしいね、僕」
「いいよ……て言うかお前、外、平気だったのか」
「うん。きみが来てくれるって知ってたから大丈夫だった」
こいつ。着信を無視してたのか。馬鹿にしやがって。
彼の手を掴み「やりたい」と言うと「疲れてるから……」と彼は顔を背けた。すぐに引き下がった俺を見て彼は「冗談だよ」と苦笑して手を握り返された。
「そんな泣きそうな顔するなよ」
「してねえよ」
深夜、また明日、と言って別れた。俺はその言葉を守った。俺と彼は、毎日一緒にいるようになった。セックスする日も勿論あったし、しない日は抱き合って眠った。彼の笑顔が心なしか増えていく。俺自身も、彼がいつか離れていく恐怖から、徐々に解放されていくのを感じていた。彼の笑顔は俺に自信をくれた。けして無力なんかではないのだと。そしてそれは彼も同じだ。何もしなくたっていい。ただ存在して、呼吸をするだけで、十分すぎるほどの価値がある。生きていてくれればいい。欲を言うなら、そばにいてくれればいい。ずっと一緒にいられたらいい。
雪の日だった。晩飯の後、俺はテーブルにファイルを出した。
「今日、不動産屋回ったんだ。セキュリティのしっかりしてるマンションを探してきた。俺、なんもできないけど、一緒にいてやることはできると思う。一緒に暮らさないか」
目を丸くした彼を見て俺は心臓を吐いてしまいそうになった。これはプロポーズと同じだ。永遠に思えた沈黙の後、彼は囁くような声で、「今朝、雪が降ったろ」と言った。
「あの雪のこと、きれいだと思った。ただ雨が凍っただけのものをきれいだと思えるようになった。毎晩ちゃんと眠って、ちゃんと食事を取って、普通のことなのにすごく怖い。たぶん、僕は今すごく幸せなんだよ。きみと一緒にいるうちに罪悪感から解放されて、僕はきっと幸せになる。からさんはもういないのに、僕だけ……それはすごく怖いことだよ」
俺はたまに、彼が何を考えて何を思っているのかわからなくなる。でも、あのひとが死んだことに少しの責任もないことだけは、分かる。悼むのはもう充分だ。
「お前のせいじゃないよ」
「なんで、そう思うの」
「お前は悪くないから」
すると俯いて何も言わなくなってしまったので、俺はあわてて話を変えた。
「そういや、墓参りってもう行ったか?」
「まだだよ」
「落ち着いたら行こう、二人で」
彼は頷いた。
「僕さ、きみがいてくれて嬉しいんだ、ほんとに、本当に……」
初めて彼と朝までずっと一緒にいた。彼は朝までたっぷり眠って、一度も叫んだりなんて、しなかった。