追憶 (16)

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2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/11/13(日) 23:53:38 ID:WbD9QQOM

ふと我に帰ると、パソコンの画面の右下では「2:00」と表記されていた。

これはいけない。思い出に浸っているうちにこんな時間になってしまった。
当職は毎晩、インターネットに強い弁護士として様々なウェブサイトの警邏を行っている。その時に小腹を満たすために夜食を食べつつ警邏して回るのが、日々の当職の秘かな楽しみである。

給湯室に入ると、徐にチキンラーメンの袋を開け、沸騰した湯に入れ込む。冷蔵庫からは子供の顔ほどの大きさもあるダチョウの卵を取り出す。立てかけてある燃料棒で卵を割り、麺を茹でる鍋に入れる。上手そうだ。
これが当職の、昔からの好物である。腹の虫が威勢よく雄叫びを上げる。

熱に気を付けながら、当職は当職の机へ当職の椀を運んだ。
Torを起動し、エロいのとアングラ板とか言う悪いものたちが巣くう掲示板をチェックする。火の通った柔らかな溶き卵と麺を啜りつつ、「野菜即達」だとか「アイス」「キメセク」といった他愛もない文字列たちの中から当職は当職の目当てとするスレを探す。
幼気もない少女たちが晒される今のインターネットははっきり言って異常だ。常識から逸脱したインターネットの世界に胸を高鳴らせつつ麺をそそる。夢中になって小指とマウスを動かしているうちに椀の中は空っぽになっていた。
傍らに置かれたティッシュペーパーに手を伸ばす。腹の虫を治めた次は荒ぶる肉塊を治める番だ。
私はもう、全てを自分の手に任せていた。

重みを増したティッシュペーパーを屑籠に投げ入れた頃、時間を確認すると時刻はもう午前の三時を回ろうとしていた。ふと先程のことを思い出す。パリと日本の時差は八時間。今頃パリは18:00を回ろうというところだろうか。



「そろそろナリね」



唐澤貴洋は机の引き出しを引き、厳重に管理されているその赤いボタンを押した。


聞くところによるとエッフェル塔は18:00になるとイルミネーションで美しく輝き、人を魅了するそうだ。
今宵の特別な煌めきは、さしずめ当職からの恩返しといったところか。絶望の淵にいた当職を救ったあの日のように、当職の灯した輝きを纏ったエッフェル塔は、また誰かのことを救うのだろうか。