3 - 3/9 2016/11/04(金) 13:09:54 ID:eLytBpmE
柔らかな肉体がしなっている。
僕はそのつま先から頭頂にいたるまでくちづけ、だらしなく垂れた腹をまさぐって贅肉をつまみ、かみしめれば肉汁の滴りそうな頬に軽く歯をたてる。
一般の男性よりも少し高い嬌声、少し短い舌のせいであまり上手いとはいえないキス、熟れすぎた果実のように甘い香り。
五感のすべてを駆使して僕は彼を味わい、そして彼は僕を味わう。
生温かい口中に含まれた僕の一部は、粘液質なその短い舌に操られてぴんと硬くなり、一段と自己主張をおこなう。
しっとりとした入り口に注意深く焦点を合わせ、僕はひといきに彼の中へと侵入する。
のしかかって腰を振る僕を、じっと双眸が見つめる。愛を確認するかのように、2人で観た洋画のラブ・シーンにあったように、視線が粘着質に絡まり合う。
きっと今、僕はひどく間抜けな顔をしているにちがいない。むき出しになった欲望を、この顔面すべてに、くしゃくしゃになるまで浮かべてしまっているにちがいない。
あまりそんな僕を見ないでくれ。
でも、もっと僕にその視線を注いでくれ。
やがて腰のあたりに、重たく熱い感触がこみあげる。
充分すぎるほど膨らんでいたペニスは更に張り詰める。本能が体を急かし、腰の速度があがる。
単調なその動きを繰り返すたび、熱っぽい吐息がいくたびも漏れ、僕はうめき声と共に相手に告げる。
「……もう、限界だ、K」
眼下の男は軽蔑した目で僕を見た。
「もうナリか? まだいれて15秒しか経ってないナリよ」
***
「……最悪だ」
飛び起きたベッドの上、頭に手を当ててつぶやく。
ベッドに寝ているのは僕ひとり、横を見たって誰もいやしない。ぴっしりと寝汗にまみれた寝間着の中、ぬめりと湿った下着の感触。
夢精なんて、まったく、いつ以来だろう?
夢のKのまなざしが、僕をえぐる。軽蔑のまなざし。細められた両目。
現実でもそうだったことを思い出して僕の気分は一層重くなる。
15秒。
一般の早漏の基準なんて知らないし、知りたくもないけれど、そういったタイプに自分が分類されるのは確かだ。
ひょっとすると、Kも僕のそういうところが気にくわなかったのだろうか? だからああして、僕とするのを避けるようになった?
悪い予想を頭を払って振り払う。バカな、そんなわけないじゃないか、Kはそんなやつじゃない。
僕が思わぬ失態に赤面した時、聖母のような笑みを浮かべてくれたじゃないか。あの夢のような顔を、するはずがない。
ひどくみじめな気持ちで下着を洗い、ついでにシャワーを浴びる。
濡れた頭をふきながら寝室に戻る。テレビの脇に積み上げられた、映画のDVDの山を一瞬視界に入れてしまうが、意図的にそれをシャット・アウトする。
カーテンの外はまだ闇がつづいている。あまり長く眠ったように思えないのは、悪夢のせいだけではないのかもしれない。
時刻を確認しようと携帯電話に手を伸ばしたとき、不在着信が一件入っていることに気づいた。
意外な人物を示すその液晶の文字を知らず知らずのうちに読み上げる。
「……M?」