2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2016/09/06(火) 06:35:27 ID:8Nbnru7k
「山岡先生」
事務所秘書が僕の執務室をノックし話しかけてくる。
「増永所長がお呼びです。なんでも重要な話だとかで」
それを聞いて返事する。
「ああわかった。すぐいくよ」
所長がお呼びだとは、どうせろくなことではないだろう。難しい案件の処理だとか、面倒な顧客の対応だとか。
しかしそれも弁護士の仕事の一部であるし、僕自身この仕事に誇りを持っていたから、面倒とは思うことはあっても苦しいと思うことは今までなかった。
所長室まで向かいドアをノックする。
「所長、山岡です」
「ああ、入ってください」
所長の穏やかな声が聞こえる。僕はドアを開け部屋に入り、所長の手をソファーに向けて頷く動作を見て腰を下ろした。
「ごめんね。呼び出してしまって」
「いえ大丈夫です。どんな御用でしたか?」
所長は深く座り直して話し始めた。
「君に事務所を移ってもらいたいんですよ」
移ってもらう?移籍しろということか?なぜ僕の仕事ぶりになにかいけないところがあったのか?
そんな疑問を所長にぶつけると、所長はすぐさま首を振り答えた。
「ちがうんだ。私の親友が、事務所を手伝ってくれる有能な弁護士を探していて、それで君を推薦しようとおもったんですよ」
「親友、ですか?」
「ああいや、厳密には私の親友の息子さんなんですけどね」
「はあ、でもどうしてまた弁護士を探しているんですか」
「なんでも、その息子さんも弁護士をなさっていて事務所の規模を拡大したいと。
それで、アソシエイトではなくパートナー待遇で誰か弁護士をということで私に相談があったんですよ」
パートナーとして事務所がもてるのであれば悪い話ではない。裁量も増えるし、収入だって増えるだろう。
僕はこの話に興味を持ち始めた。
「それでその弁護士はどういった方なんですか」
「私の親友は例のブルドッグのときに知り合ったんだが」
「え?ブルドッグ?」
僕の体に戦慄が走った。にわかに鼓動が速まるのを感じた。
「ブルドッグのときの仕事仲間が所長の親友で、その息子さんが弁護士なんですか?」
「ああ、そうだが」
所長は不思議そうな顔をして僕のことを見た。
「その弁護士の名前は―」
脈拍は抑えきれないほど上昇し、息もあがり始める。顔が紅潮するのを自分でも感じる。
「どうしたんですか山岡くん。まるで生き別れた兄弟を見つけたかのような顔をして」
所長は依然として不思議そうな顔をしている。
「いえ、なんでもありません」
「そうか、それならよかった。それですぐには決められないだろうから回答の期日は―」
「やります。移籍します。そこに」
僕は即答した。
(続く)