問題裁判 (11)

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2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/09/05(月) 17:33:20 ID:dJ3fIupg

 事務所にて、やせ型の眼鏡をかけた青年が来客用のソファに座っている。彼は床に寝転がった唐澤を眺めながら、山岡に話しかけた。
「唐澤さんの言動はまるきり子供の駄々だ。 もうこうなったら同じ原告代理人である山岡さんが出るしかないですよ。」
「それじゃ、全く意味がないんだ。」
山岡は苦虫をつぶしたような顔でそう答える。
「お腹痛いなり、お腹痛いなり、お腹痛いなり。」
唐澤の目から大粒の涙がこぼれていた。苦痛に喘ぎながらも巨躯を転がし地団太をふんでいる。
「本当は裁判いきたくないんでしょ。いい加減にしてくださいよ唐澤さん。」
唐澤に叱咤を飛ばした新入りを山岡は無言で睨む。
「違うナリ。ほんとにお腹が痛いなり。お腹が痛くて死んじゃうナリ。助けて山岡ぁ!」
 差し迫った事態に山岡はため息をついた。徐々に大きくなる唐澤の泣き声、迫りくる開廷時間。
 このままからさんが腹部の痛みを訴え続けたら、オランダヒルズはおろかこの事務所から出ることすらもできない。鎮痛剤は一瓶飲ませたが、まだお腹が痛いナリとからさんは泣く。このままいけばどうなるか。「尊師wまた逃亡w」「無能弁護士、顔開示恐れ出廷拒否」「速報 唐澤貴洋さん裁判バックれ 」ますますヒートアップするからさんへの誹謗中傷。そのような光景を簡単にイメージできる。阻止するには、どうすればいい。
彼はふとアイディアを思いついた。
「そんなにお腹の痛みが続くなら、お腹をとればいいんだ。」
お腹、すなわち腹部の部分。胃、小腸、大腸。
「からさんが、おなかが痛いと言うならば痛みの原因である胃腸を切り取ってしまえば、からさんは痛みを感じることはなくなるだろう。お腹が痛くなければ裁判にも行ける。」
唐澤の魔眼に犯された弁護士がこねた理屈はいささか奇妙なものだった。

「裕明、なんだか頭がボオっとするナリよ。」
「からさん、すぐおわりますからね。スマートフォンを枕のそばに立てかけておきます。からさんの好きな映画を流しておきますよ。」
 事務所に寝室が併設してあって本当によかったと山岡は思う。即席でこしらえた手術室は、素人の出来にしてはなかなかのものだった。唐澤との夜のプレイ用に用意していたメスやクーパー、カテーテル、その他諸々がこんな時に役に立つとは思いもよらなかった。