みにくいアヒル口の子 (23)

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3 - 3/5 2016/09/01(木) 19:01:53 ID:JvuyoC06

ATSUSHIは自問自答する日々を送りました。
生きるため仕方なかったとはいえ、誰かを傷つけてよかったのだろうか、と。
いくら考えても答えは出ませんでした。

「何か悩んどるようやな」

急に声をかけられてびっくりしたATSUSHIが振り向くと、そこにいたのは一羽のオウムでした。
ATSUSHIは今までのいきさつを説明しました。するとオウムはこう返事をしました。

「奇遇やな! 実はワイも昔、同じようなことで悩んどったんや。
 最終的に出会ったのが『教え』だった」

ATSUSHIが『教え』とは何なのかと問うと、オウムは自分達の道場に来るように言います。
どうやらオウムは教団と呼ばれる組織に所属しているようです。
他に行くあてもないし、悩みが解決するならと、ATSUSHIはオウムについて行くことにしました。

こうしてATSUSHIはオウムの教団に入り、
山梨県上九一色村の道場(サティアンと呼ばれていました)で修行の日々を送ります。
ある時は息を止めて水に潜っていられる長さを競い、
ある時は頭によくわからない装置をつけて電気ショックを受け、
ある時はLSDをキメながら熱湯風呂に入りました。
また時々、教団のトップである紫色の羽毛のオウムがやって来て、
ありがたいお話をしてくれることもありました。

相変わらず悩みへの答えは得られないし、『教え』についてもよく解らないままでしたが
誰も傷つけずに生きていけるのは幸せだと思っていた、そんな矢先のことでした。

ある夜、教団の幹部であるオウムがATSUSHIのところにやってきて、こう告げました。

「旧尊師のご命令だ。今から車で出るぞ」

旧尊師、すなわち教祖である紫オウムからの指示。
ATSUSHIはついに悟りを開くためのイニシエーションを得られるのだと思い、
色めきだって車に乗り込みました。

ところが車は教団施設のある上九一色村を離れ、神奈川県へと向かいます。
最初は興奮を隠せなかったATSUSHIでしたが、やがて不安になってきて、
これから何をするのかと幹部オウムに尋ねました。すると幹部オウムはこう答えました。

「ワイらオウムの活動を邪魔しとる弁護士がおるんや。
 そいつを家族もろともナイフでめった刺しにして殺す。
 あとついでにピュア虎ノ門4階の法律事務所クロスを爆破する」

ATSUSHIは身が震えました。
確かにATSUSHIは今まで悪いことをしてきましたが、ただし暴力はNGの精神で
誰かを直接傷つけるようなことだけは絶対にしませんでした。
こんなことは間違っているとATSUSHIは抗議しました。ですが幹部オウムは

「これは一般に見れば単なる殺人ですが、
 ヴァジラヤーナの観点が背景にあるのならこれは立派なポアです」

と返すだけ。ATSUSHIは恐ろしくなりました。
これが『教え』の正体だったのか。自分は今まで騙されていたのか。
いや、それに気づけなかった自分は何と愚かなのだろう、と。
ATSUSHIは走行中の車から強引に飛び降り、そのまま夜の闇へと消えていきました。