有能弁護士の一日が始まる。 (7)

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3 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/08/27(土) 04:25:08 ID:6Hb7XUW6

母校での講演は大変なものであった。
前の依頼人で時間を食いすぎたせいもあって、遅れてしまいそうになった。これは何とか間に合ったものの、今度は講堂が満員で立ち見で溢れかえる始末。
思わず初めの挨拶で苦笑してしまったくらいである。
昔はヤンチャをしていた大学の講堂で、こうスーツを着て大勢の前に出ることになるとは。自分を見る皆の目が輝いている。こういう視線は、いつまでたっても苦手である。細君1人からの目線でさえ照れる時があるというのに。

さて、ようやく学生たちの質問の嵐から解放され、疲れきってしまった唐澤貴洋を迎えたのは白いリムジンであった。
父、洋の調達した車である。すっかり引退して唐澤貴洋に全てを譲ってしまった彼だったが、疲れた息子に対してここで移動の間でも眠っていなさい、と言う。
弟から来た長文のメールを読みたかったのだが、父から寝ろと言われたなら仕方がない。「兄さんには敵わないなあ」で必ず終わるような愚痴メールなら、後でも良いのだ。
しかし、問題はこの後の依頼者である。普通ならマネージャーと契約、あるいは相談なりして終わるのだが、今回の芸能人は弁護士に直接会いたいらしい。
13歳で法律に興味があるのか、と聞いたらそうではなく、彼女は単に唐澤貴洋個人に興味があるだけらしい。有名になるのも困ったものである。
ジュニア・アイドル。彼女らの依頼をこなすのは初めてではないが、直接会って話したいなどと言われるのは初めてである。
13歳の少女とどうやって接すれば良いのだろうか。唐澤貴洋は悩みながら眠りに落ちた………







唐澤貴洋は目を覚ました。うるさい目覚まし時計を叩きつけて黙らせると、太りきった身体を揺すり布団の中であくびをする。
さて困った。今日は依頼もないし、誰かが起こしてくれないと布団から出る気がしない。しかし今日は家に誰もいないのであった。老いた父も母も共に出かけている。
面倒くさいから今日は出勤はやめよう。
無能弁護士の一日が始まる。