有能弁護士の一日が始まる。 (7)

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2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/08/27(土) 04:22:33 ID:6Hb7XUW6

唐澤貴洋は有能な弁護士である。無論彼自身はそんなことを口に出したこともないし、思ったこともない。他人が勝手に言っているだけである。
しかし、嫉妬の目線を送る細君を言いくるめて時間通りに通勤する時だけは自分のことを有能弁護士だと思ってもいいんじゃないか、と心の中で呟く。
結局のところ、女性は愛している者に囁かれると弱いのだ。スマートな身体を震えさせ、少しだけくっくっと笑ってみせる。引っ張りだこの彼は、家にいる時を除いては通勤時間が唯一の憩いの時間である。
さあ、仕事に取り掛かろう。

同僚の山岡は既に来客への準備をしていた。いつも仕事が丁寧な男だが、やはり高名な依頼人とあっては緊張するようである。
「からさんにとってみれば、大した依頼人じゃないのかもしれませんけどね。」
などと彼は気弱に微笑む。冗談じゃない、君がいてこそだよ、と彼は励ます。
もっとも唐澤貴洋個人としては、緊張はするがマスコミに囲まれた時ほどではない。

さて、依頼自体は大したことではなかった。彼は要領良く自体を纏めると、具体的な戦略を持ち出し、裁判への切り口を慎重に決めていく。
側で書類の整理をしている山本はほう、ほう、などと唸っているだけだったが、流石に山岡は気付いたようだ。これは、宇都宮弁護士と争って勝利した際のやり口そのままである。同じ手はあまり使いたくないが、ここはかの巨名のご利益にあずかろう。
一通り終わった後、さる高名な依頼人は優雅にお礼を言ったがやんわりと断った。
勝利するまでは、感謝されるわけにもいかないのである。それが弁護士唐澤貴洋のポリシーだ。