1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/08/22(月) 18:03:30 ID:5MYHS7xs
あの日と同じバーカウンタで彼と話した。窓に張り付いた雨粒が東京タワーの明かりを濡らしている。
「きみにそう言ってもらえるのはすごく嬉しい。でも、僕はもう終わってたんだと思う。はじめからずっと、何もかも手遅れだったんだよ」
絞ったレモンを灰皿に捨てた。俺がその上に灰を落とすと、透明な果肉は黒く汚れてぐちゃぐちゃになった。
「僕たちはどう見えてるんだろうね」
「……さあ」
「悪いことなんて一つもしてないように見えたらいいよね。なんだか、世界に二人になってしまった気分だよ」
たった半年だ。たったの半年で、彼も俺も、すべて変わってしまった。あいつが俺に話を持ちかけてきた日が、遠い昔のことのように思える。血の匂いがしないか? 彼がそう言ったのを、俺は否定できなかった。
※
彼とはホテルの45階にあるラウンジで待ち合わせた。ガラス張りの窓のカウンター席に、既に彼はいた。隣に座る。
「もうチェックインは済ませたよ。あの人から聞いているかもしれないけど、後で色々説明する」
「はいはい。何飲んでるんですか」
「ヴェルモット」
「へー。赤くて綺麗ですね」
ウエイターを呼び止め、ジントニックをオーダーした。それを二杯飲み、煙草を吸って、部屋に向かった。
おさえられていたスイートは最上階にあった。エレベータのボタンを押して、扉が閉まると同時に俺は彼にキスをした。抵抗する彼の腰をがっちり掴んで、食いしばった歯を舐める。音を立てて扉が開いた。乗り込もうとした宿泊客と目が合う。
エレベータの中で男同士がキスしている、それを見てぎょっとした様子の間抜け面を睨みつけて、俺は閉ボタンを押した。最上階に着いたエレベータが停止。解放してやると彼は激昂した。
「部屋まで待てないのか!」
「大声出さないでくださいよ。気分くらい高めさせてくれたっていいでしょ。お互い好きでもないのとやるんだから」
彼は静かになった。横顔が赤い。無言で部屋に向かい鍵を開ける。部屋に入ってすぐ彼の後頭部を掴んで、ドアに押し付けて後ろから犯した。早くもズタズタになったド淫乱がへたり込む。邪魔だったから蹴飛ばし一人バスルームに向かった。
バスルームだけで俺の部屋ほどの広さがある。この部屋をおさえた上司の財力には驚かされるばかりだ。