2 - 2 (聞くや否や大男は首肯した) 2016/08/17(水) 00:03:45 ID:WCkhRTug
時は流れ、西日が人工光を塗り犯す頃合い。
国家を揺るがす権謀は早くも暗礁に乗りかかっていた。二人には政治がわからぬ。ただ異常な自己顕示欲だけが若鷹たちの原動力だった。
「まー、今の政権はダメだよね。なにせ駄目だから」
「うん、変えるしかない的な」
こうして内心焦りながらも互いに自尊心を傷つけまいと空虚な言辞を投げ合っているのが関の山。
果たしてそれはどちらの口から出たものだったか、またしても苦心の末の発言が飛び出た。
「だいたい程度が知れる学歴なんだよね〜」
「わかる、俺たちSボーイを差し置いてあれが横行するってのが」
苦笑めいた吐息と相槌。それに意外な反応が呈された。
「君たち……Sボーイナリか?」
寝ぼけ眼を擦りながら尋ねたのはあの闖入者。襟の徽章が夕焼を反射している。
暫時、二人の熱意の丈を聞き届けたデブは何度も頷く。
「話は聞かせて貰ったナリ。祖国の未来を憂い、暗君の跋扈に毅然として立ち向かう……その気骨まさしく弊職の後輩ナリ」
瑞々しい唇が動く。呼応するように粘り気のある液体が口元より伝った。官能的甚だしいが、今は男心は捨て置きべきだ。放たれたあるワードに驚きを隠せない。
「え、まさか……あなたは」
「せ、先輩!?」
動揺しつつも喜色を浮かべる二人。まさか斯様な地でも同士、それも先達と見えるとは改めて人脈の脅威を感じる。だが、
「そんな憂国の士である貴職らよ。弊職に妙案があるナリ」
「なっ」
意外極まる提案は先の驚愕を凌駕するには十分すぎる。とんでもない! と阿吽のごとく二人は思いを共有した。
ニューエイジたる俺たちがやるから意味があるんだ。いくら先輩だからと言って手柄が減る真似は御免だ。第一こいつだって邪魔なのに。
そんな感情が脳裏を激しく去来する。断るまででもないが二人の根底にあるのは功名心のみ。いわば自己顕示欲の奴隷である。
「そ、そんな……いくらなんでも偉大なる数パーセントのぶっ飛んだ先輩のお手を煩わせるなど……」
「さしもの僕の人脈でも恐れ多いですよ!」
狼狽の色を晒す二人。額には玉のような汗が滲んでいる。そんな翻意を懇願する後輩に降り注いだ声には変わらぬ熱が篭っていた。
「在学生の側にいるOBがいます」
耳朶を打つ力強い言葉に一様に面を上げる二人。限界まで剥かれた瞳は涙によるものか、炯々たる光を映している。そんな視線を一身に浴びた徽章の男はこう続けた。
「我ら藤沢の学徒、同じ地で薫陶を受け研鑽を重ねた学究の士。例え学び舎を去った今でも友をいたわる心、決して失ってはおりません。声なき若人に智慧を。迷える後輩に指標を。後、弊職の名前は一切出さないでいいナリよ」
「!?」
掌が翻る音がした。正味、大部分は意味のわからない演説だったが、最後の一言。高い買い物が二束三文に変じた。思考を放棄しながら国を変えられるなんて、デモの上位互換だ。
「おい」
大男は小男に視線を向ける。
「ああ」
どうやら相方も思いは同じのようだ。
「で、では是非ご教授を……」
「⚫️はい。まずは小四に────」
その後の結末は論を俟たない。インターネットに強い薫陶を授かった二人は無事、近年稀に見る卑劣な政治犯として日本全土に悪名を轟かせることになった。
その後、動物的な感情の持ち主達に目をつけられた挙句数々の愚行が露見しネットミームの末席を汚すことになるのはまた別の話。
その内一人と自分のイラストが他の玩具と相乗りするコラージュを眺めていた男は、誰に聞かせるでもなく呟く。
「まあ、弊職は後輩にチヤホヤされたかっただけだからどうでもいいナリ」
彼もまた自己顕示欲に囚われた豚に過ぎないのである。