「司法の神」 (25)

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3 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/08/13(土) 00:18:26 ID:PPvOuA4o

翌日の裁判では、唐澤はあっさりと勝ってしまった。
裁判官は原告側の意見を手早く聞き、被告側の意見を手早く聞き、手元の資料も見ずにあっさりと唐澤の勝ちを宣言したのだ。
彼は拍子抜けした。それどころか、あまりにも速すぎる勝利をいぶかしんだりもした。だが、判決は降りたのだ。神の力のおかげかもしれない。そう考え直して、閉廷した職場を後にした。
天秤は丁重に、金庫にでもしまっておこうか。

そんな嬉しげであり、納得がいかないといった様子でもある唐澤の帰路を止めたのはスーツを着た3人組だった。
よく見ると、それぞれ弁護士バッジをつけている。
同業者が何の用だろうか。なぜ無言で立っているんだ?
道を塞がれ困惑する彼に、3人組は封筒を突き飛ばすように押し付ける。
あっけにとられて腰を抜かした彼を置き去りにして、もう関わりたくない、といった様子で足早に去っていった。
どうしようもなく、残された彼は封筒を情けなく開ける。そこには、弁護士会からの除名通知が入っていた。


突然の災害の原因を知ったのは、唐澤が帰宅した直後、開きっぱなしの法典を見たときである。
最後のページに、彼にとっては見慣れない条文が追加されていた。

「唐澤という弁護士が付いた者は、必ず訴えの全てを認められ、裁判費用を負担することはない。」

なるほどこれでは勝負にならない。あの3人組が突き飛ばすのも道理だろう。
そういえば、彼女は司法の神であった。裁判の神ではない。
どうやら当職は縋る神を間違えたらしい。