1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2016/08/11(木) 18:18:44 ID:FYEvlpWU
人間とは、命とは、何であろうか。
今Kが手にしている缶ジュースは百数十円ぽっちであった。その百数十円を貧しい国の人々に寄付していたのならば、幾つもの命が救われたであろう。
貧富、産まれ、社会的序列、身体、親、etc...
産まれながらにして格差を持つ、これが優しい世界なのか?自問自答を繰り返す日々。
風の民のほとんどはその格差の底辺に住まう者達だ。その者達の恨み辛みを一身に受け止めることで救われるのではないか、そんな思いは所詮幻想、机上どころか脳内の妄論でしかなかった。
缶ジュースを飲み干す。体に悪いと言われているが買ってしまう。何故なのか?答えてくれる者は、神はいない。
全ての格差を無くすためには、どうしたらいいのか。ある者は神託を受け救いの教えを人々に広めた。ある者はハルマゲドンに毒薬で対抗しようとした。
今ではその者達も息絶え土の下だ。概念と思想だけが足を生やして蠢いている。その足にしがみつく人々は救いを懇願したが、足から上は考えてみると何も無い。足は目的も無くただ歩いている。足だけが。
その足にしがみついてるから前に進めている、のではなく自分の足で歩いているから前に進めている、ということに人々はいつ気付くのか。気付いてもまだしがみ続けるというのか。それが信仰か。
事務所入口の花瓶でカワミドリが鮮やかな薄紅藤を晒している。
「からさん、こんにちは」
以前より明らかに窶れていたが、それでも当職の理想に向かって二人三脚で歩んでくれた相棒が挨拶をかけてくれた。
軽く返事をしてソファーに腰を落ち着かせる。カラになった缶をずっと持っていたので手が少しベタつく。
そのベタついた手でモニターのスイッチを押す。すると、巨大な装置が映る。思わず口が繊月型に曲がってしまう。
核では足りなかった。全ての格差を取り除くには。
漸く完成したそれを眺めてから、また缶ジュースを飲む。しかし当然缶の中には人工の甘い蜜は一滴も残っておらず、喉は渇きを増すばかりだ。
缶を捨てるついでに手を洗う。水道水をそのまま飲もうと思ったがそれではカワミドリと同じではないか、という考えが頭に降って湧いた。しかし、人と植物に違いなどあるだろうか?苦しみ、楽しみ、他の生命と共に暮らし、そして死んでゆく。変わらないのだ。
コップも使わず水道から直に水を得る。Kの喉は途端に満足した。水無き喉に潤いを。
既に準備を終えたY本が呼びかけてきた。