1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/07/30(土) 13:26:05 ID:C9kFfvgk
「昼食のサンドイッチ二人分買ってきました。あとオランジーナも。」
「ありがとう山本くん」
扉を開けると優しい世界。厳しく熱い夏の日差しに打ちひしがれていた俺にとって事務所の中はまるで天国のようだった。
長身の伊達男はいつも通りの愛想笑いで俺から食べ物が入ったビニール袋を受け取る。事務所の奥では常時不機嫌そうなデブが談笑する俺たちを睨んでいた。
俺がこの事務所に移ってから数カ月経つが、ヒマワリのバッジを胸に掲げながら司法修習生でも犯さないミスを次々とやらかし数年前から匿名集団の誹謗中傷の標的となったデブと
俺と同じく順調にエリートコースを進み財務関係の仕事をこなしてきた目の前の男が、共同で事務所を設立した理由がいまだに分からない。
小太りのデブは事務所のソファに横たわり一日中スマートフォンをいじくりまわしている。仕事用のパソコンを立ち上げるのを見かけやっと仕事をする気になったかと彼のパソコンに視線を移せばディスプレイいっぱいに幼い子供の裸体が写しだされていた。
最初のころは根拠なき中傷と戦う唐澤先生と敬意を込めて接していた。しかし彼は仕事をしない、やろうとも思わない。簡単な書類のコピーをお願いしてもご丁寧に斜めにずらしてこちらに渡す始末だ。
口を開けば児童ポルノやマニアックな洋画など自分の興味のある事柄を一方的に捲し立てるだけで世間話も通じない。やってほしい雑務もないので業務連絡も回す必要もない。畏敬の気持ちは瞬く間に失われ
一か月もたたないうちに弁護士唐澤弁護士は俺の中でそこらへんに転がる脂肪の塊(38)と化していた。
そんなデブに山岡さんはなぜか一日中寄り添い業務をこなしている。「からさん、今日はsowaが安いですよ。」「今日はセミがうるさいですね」「汗をかいているようですね、クーラーの温度、もう少し下げましょうか?」
まるで母親が乳児に話しかけるように、山岡さんはデブの隣のデスクに席を置き、業務の合間に度々話しかける。デブに押し付けられた案件は相当な量なのに。同僚である彼は、本来無能デブの存在に苛立つ立場である。山岡さんのデブに対する態度に、俺は時々なんともいえない不気味な感情を抱いていた。