3 - 3 2016/07/29(金) 00:39:30 ID:5dYV/pNE
それにしても、この部屋のせいだろうか、時間の感覚は完全に失われ、僕はもうこの部屋に来てどのくらい経ったのか分からない。一年、半年、それとも、たったの数週間か。
毎日からさんに「再教育」され、意識を失う。目を覚ますとたまに野菜とフルーツだけの食事が与えられ、また再教育を受ける、そういう日々が続いた。再教育の後に飲まされる薬のせいなのかいつも僕は意識が朦朧とし、昨日の記憶すら曖昧になってしまう。
首を絞められながら犯されていたかと思うと、からさんのことを抱き締めてキスしている。僕を犯していたからさんを、僕が抱いている。記憶は映画のワンシーンか、切り貼りされたパッチワークだ。僕が一番初めの日だと思っているあの日は本当に初めの日なのか。僕とからさんはかつて恋人同士だった、朝も昼も夜もいつだって一緒にいた、けれど、それは本当の記憶なのか。全ては僕が作り出したまぼろしなのかもしれない。
……いや、考えても無駄だ。眠っているのか起きているのか夢なのか現実なのか生きているのか死んでいるのか。それすら、今の僕にはよくわからないのだから。
再教育の一環として、からさんの前に跪き「あなたは神さまです」「僕は間違っている」と言う時間が設けられた。あなたは神さまです、あなたは神さまです、僕は間違っている……唱えているとふしぎなことに、目の前にいる人が本当に、かわいそうな僕を救済してくれるたった一人の僕の神さまであるかのように思えてくる。からさんは神さまだ。跪いて爪先にくちづけることなど容易い。
再教育が終わって僕が気絶するときは良かった。意識を保ったままからさんが部屋から出て行くのを見るたびに、ひどい孤独感に苛まれ死にたくなった。
僕の神さまが次に来てくれるのはいつだろうか。何時間後? 何日後? そういう日は幼い子どものようにぐずぐず泣きながら眠る。ここでずっと待ってるから会いに来てほしい。
どんなに痛めつけられても僕はからさんを疑うのをやめた。これは崇高な神の愛だ。虐待などではない、けして、けして。
「山岡くん」
名前を呼ばれて飛び起きた。
「ひどい顔ですね」
からさんの指が僕の目元をなぞる。ずっと鏡を見ていないから僕にはわからない。目元のクマがひどく、若干痩せたように見えるらしい。
「今日はお休みにしましょうか」
「えっ……あの、それじゃ僕はどうしたら」
「一緒に過ごしましょう」
ほっと胸をなで下ろす。
風呂に入れてもらえた後、からさんは痣だらけになった僕の身体に丁寧に軟骨を塗り、あたたかい手のひらで優しく撫でてくれた。好きです、と思わず口にしてしまう。虫以下の僕がそんなことを言ったら失礼に決まっているのに、からさんは「ありがとうナリ」と優しく頭を撫でてくれた。