11 - 続き1 2016/06/28(火) 14:45:00 ID:xyJ1PkrA
数時間、あるいは数分かもしれない。僕は床に横たわったままぼうっと壁を見つめていた。
シャワーを浴びなければならないことは分かっているのに、どうしても身体が動かない。先程まで僕の体内に入っていた、あの男のモノの感覚がまだ残っていて吐き気がする。尻にかけられた精液はとっくに乾いていて一層不愉快だ。
あの男は一体、僕の何が気に入らなかったというのだろう。同類のくせに、と彼は繰り返していた。僕だって、自分が偽善者だという自覚はある。
依頼人に同情するふりをして心の中は常に冷めている。他人の不幸にほっとする。悲惨な境遇をヒアリングしながら夕飯のことを考える。しかし、それは僕に限った話だろうか。誰しも自分が一番かわいいのだ。
それに僕は、先輩に対して意図的に媚を売ったことなど一度もない。たったの一度だって。
デスクの上のスマートフォンが震えた。それを手繰り寄せ、画面を見る。からさんだ。数秒躊躇ったが、通話ボタンを押す。
「はい。僕です」
「起こしてしまったナリか? 今夜は電話がないから心配していたナリよ」
「すみません。まだ仕事をしていたので」
「まだ事務所にいるナリ? 遅くまで申し訳ないナリね」
「……からさんが謝ることではないですよ。僕の作業が遅いだけですから。今日泊まってもいいですか? もう終電、無いので」
「構わないナリが、山岡くん、どうかしたナリ? 声に元気がないナリよ」
突然同僚にボコられてレイプされました、なんて言えるわけがない。気のせいですよ、と僕は答えた。
「山岡くん」
「はい」
「冷凍庫の奥の方に、当職が隠しておいたアイスがあるナリ。本当は当職が食べたいナリが、きみにあげるナリ」
「……はい。頂きます」
「バニラ味ナリよ」
「からさん」
「はいナリ」
「好きです」
僕はそこで通話を切った。スマートフォンの電源を落とす。
よろよろと起き上がり、念入りにシャワーを浴びた。鏡を見ると左の頬がやや腫れている。身体にもいくつか痣が出来ていた。階段から落ちたと言えばいいか。ベタな言い訳だが。
今日着ていたスーツはゴミ袋に入れて捨てた。
からさんは僕をどう思うだろう。他の男と寝て快楽を得たことについて。からさんと出会ってからずっと彼だけを抱いてきたのに、僕はとんでもない罪を犯してしまった。
いや……何も考えたくない。ただ眠りたい。
ベッドに横たわり、数時間眠った。身の回りの人間が全て知らない顔になっている、気味の悪い夢を見た。