ではさよなら『崩星二厨』 (6)

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2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/05/04(水) 02:05:02 ID:yrkgaO7o

ただそのイエローペリルは、自分だけに留まらず、男の愛すべき友人、愛すべき家族をも無慈悲にのみこんだ。
男は迷った。戦ううちに、その黄色い哀れな人達を開示するたびに、彼らがいかにかわいそうなのかを知ったからだ。征服する快感だけを教え込まれ、人間として生きることを忘れた哀れな人々。ただ、迷ったまま男は拳をふるった。
そうして黄色い人達は黄色い人達のまま檻に入れられ、肉便器にされた父は真っ白な部屋でただ笑うだけになり、弟はなすすべもなく死んだ。
人は人を愛さなければない。男は涸れた声で呟いた。ぽつりとつぶやいた言葉は虚空に溶け、風にまぎれて消えていく。
もはや、言葉は力を持たないのだ。
ただ、それでも男は言葉をつむぐ。あの白き民達も、元々は人里離れた集落でひっそりと暮らしていたのだ。何かやむを得ない事情が、理由があったのかもしれない。それでも。手で覆った向こう側、陰になって見えない顔をなお隠しながら、もう迷わないために男は言葉を口にする。
人は人を傷付けて幸せになれるのか。男は震える手を、自分の顔に食い込む指先を感じている。君は親を殺すことができるのか。白い病室で父は最後まで綺麗な笑みを浮かべていた。あれは決してエゴではない。いま君は何を見ているのか。目の前には、誰かの幸せを壊すかもしれない誰かがいる。
ならば当職は、私は幸せにならなくていい。
男はそっと顔をあげた。
それは苦しみだった。そして堪えようのない怒りであり、悲しみでもあった。言いようのない感情がぐるぐると渦を巻いて、男には自分がどのような表情を浮かべているのかわからなかった。
男はただ薄く微笑んでいた。
男は手のひらをちらと見た。小さい時、父の手はあたたかで、大きなものだった。生まれたばかりの弟の手は、ぷくぷくとしていて、とても小さかった。
守るべきものは手のひらの内にあったのに。手のひらは繋ぐためにあるのに。
男は手を硬く握り締める。もう、この手が誰かの手を優しく包むことは、たぶん、ないのだろう。
ふと空を見る。鉛色の空は何するでも無くどこまでも続いている。
ではさよなら。
男は握り締めた拳を振りかぶり、そして振り下ろした。
『崩星二厨』
最後に口にしたそれは、悲しい決意に満ちていた。