ココア (11)

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4 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/04/09(土) 10:04:47 ID:XTX.YoHw

以前、ひねくれ者の先輩がこんなことを言っていた。事実は小説よりも奇なり、その理由がわかるかい?それはな、現実は小説と違って、人間に理解可能な理由なんてなくても勝手に進んでいくものだからだよ。実際、因果や理由なんてものは人間の認識が要求する思い込みみたいなもんなのさ……。めんどくさい人もいるものだな、と聞き流していた、そんなどうでもいいようなことをふと思い出す。高学歴特有の不要な連想。これはあきらかに現実逃避だ。現実逃避を指す英語の慣用句に " follow an ostrich policy " とかいうのがあったっけ……。こんなことばかり考えている現状がまさしくそのものだなと苦笑する。往々にして、現実逃避が行われている時というのはもはや現実逃避などしている場合ではない。ご多分に漏れず、僕もまたどうしようもない現実を前に途方にくれているところなのだった。


洋「みっみるく」ビクビク


洋さんが倒れている。むくむくと肉付きのよい肢体が不規則に痙攣している。どうしてこんなことになったのか、理由や経緯なんてものは、もはや僕にはなにもわからなかった。いまここにいる自分と眼前の光景、それだけがすべてだった。鼻腔に満ちた血の匂いはもんわりと甘ったるく、見慣れているはずの事務所はロスコの抽象画のように赤く揺れている。その一面の赤の中、ぱっかりと開いた洋さんの頭蓋骨からほの白い脳髄が流れ出していた。にじみ、したたりつたう脳髄は幾本もの筋となり、チャーミングなもみあげをより白く染める。まだ脈動の残る黒ずんだ陰茎からはたらたらと精液が垂れつづけ床を覆いつくしていく。脳髄と精液、二種類の白と白とがとろりと混ざりあい、絶妙なグラデーションのマーブル模様が浮かびあがる。おだやかな夕陽が、なにもかもを静かに包み込んでいた。この白昼夢のようなひとときを、僕はただただぼんやりと眺めつづけていた。


「 ヒロシ!もうミルクの時間ナリよ!早くするナリ!! 」


カラさんが隣の部屋で叫んでいる。
僕は静かにその場を離れる。
「カラさん、洋さんはしばらく出張だそうですよ。今日は僕がミルクを入れてあげますね。」
自分でも驚くほどにそつなくことは進んだ。
カラさんが落ちついたのを確認してすぐ、肉塊の横たわる給湯室へともどる。
床に拡がる脳髄と精液の混合液を手ですくってかきあつめる。まだ暖かい洋さんの肛門に口をつけズズズズッと大便を吸い上げる。ブルドッグソースのような独特の刺激臭がつんと鼻をつく。口にためた糞便をコップに移しかえ、先ほどの脳髄と精液とを加えてよく練り混ぜる。いつのまにか、僕の手にはココアの注がれたコップがおさまっていて、カラさんはそれを心底おいしそうに飲み干した。
「見ろやまおか!ココアもう空っぽナリよ!ミロみたいで当職メロメロナリ……日本のココア界を作っていきましょう。」
うっとりと陶酔の表情を浮かべるカラさん。僕の脳裡をかすめたのは、それとよく似た洋さんの笑顔だった。精神と肉体の均衡が一挙に瓦解する。こみあげてくる嗚咽をこらえきれず、しゃがみこむ。
「やまおか…?どうしたナリか?おなかでも痛いナリか?」
ナリナリとまとわりつくカラさんの無邪気さが僕を追い詰める。なにもわからないカラさんはただおろおろと僕の背中をさする。
「これはいけない。ラッパのマークの正露丸ナリ!」
ぺたぺたといずこかへ走ってゆくカラさんの後ろ姿、ふりふりと揺れるかわいいおしりは親譲りの小気味よい形をしていた。

『 あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』

絶叫は、心のなかでだけ。