6 - 6/7 (sage) 2016/04/07(木) 20:14:54 ID:/escYxyk
昼だった。僕らは海辺の小洒落たレストランに来ていた。
「Y本くん、ナイフの持ち方はそうじゃないナリ」
生まれだけは上流のKは僕のテーブルマナーが気に入らなかったらしい。
「はあ、ありがとうございます」
言われた通りにすると、Kは「分かればいいんだ」とか何とか言ってまたムシャムシャと食べ始めた。
レストランを出ていよいよ浜辺につくと、Kは露骨にキョロキョロした。
「Kさん、荷物置いてきましたよ」
Y岡は手早くパラソルを設置してきて、Kの横に立った。見慣れたスーツ姿ではなく、大学生のころを思い出させるようなラフなスタイルだった。
「大学生のころを思い出しますね」
Y岡もちょうどそう思っていたらしく、僕に向かってにっこりと笑った。そうだ、僕らには不可侵の神聖な思い出がある。優越感に浸りながらKの方を見ると、Kは暗い目でじっとりと舐め回すように僕を見ていた。
「・・・そうだ、Y本くんに話があるナリ。Y岡くん、ちょっと荷物見ててくれるナリ?」
「ええ、いいですけど・・・」
ずいぶん歩いた。浜辺の喧騒は遠く、涼しい風に乗ってざわめきが運ばれる程度だった。岩陰は日差しを遮り、べたついた肌に心地よい。
「アンノォ・・・言いにくいことなんだけどね、当職とY岡くんはお付き合いしているナリ。だからY岡くんに色目を使わないでほしいナリ!」
「色目なんて、そんな・・・僕は・・・」
使ってないと言い切れるだろうか。残念なことだが言い切る自信がなかった。
「当職たちのサンクチュアリに君にいられても迷惑なんですを・・・」
そう言ってKがどこからか取り出したナイフの反射光が僕の目に刺さった。ああ、暑い。夏だった。太陽も空も海もナイフもきらきらと輝いて僕を焼く。昼だった。
咄嗟の行動だった。僕はKを刺していた。滅多刺しにした。抵抗を感じたのは最初の2回くらいだった。Kはピクリとも動かなくなった。
僕はKを引きずって崖の上まで運ぶと突き落とした。何の役にも立たない人間だったが、海の生き物の餌くらいにはなるだろう。