6 - 6/6 (sage) 2016/03/04(金) 13:14:21 ID:iJxOtsJI
「もうこんな時間ナリね。当職はお出かけするからあとは任せるナリ」
「駄目です。今日はM上さんが取材に来られる日ですよ」
はてM上? 少々考えてから思い出す。
ああ、インターネッツの悪いものたちに妙に持ち上げられているあのITジャーナリストか。
「めんどくさいナリねえ。ちょっと出かけて《カラニー》したかったのに」
瞬間、Yくんが茶を載せた盆を落っことす。その顔は驚きに満ちている。
やはりカラニーという単語の効果は絶大であるようだ。
「か、Kさんもカラニーなさるんですか? しかも外で?」
「何を当然のことをきくナリか? もちろんするナリよ。毎日するナリ」、少々話を盛っておく。
「毎日!?」、Yくんはますます驚愕した顔で言う。「その、なんていうんですか……ご自身への愛情がすごいんですね」
「愛なき時代に愛を。」、ここぞとばかりに決め台詞を言ってやる。「当職がいつも言っていることナリよ。ありがたい言葉なんだから紙に書いてトイレの壁に貼っておきなさい」
「いやぁ、なんというか……やっぱりKさんはすごいなあ。自分で、しかも外でするなんて、僕にはとても……あの、警察にはお気をつけてくださいね」
「国セコがどうかしたナリか? 連中なんて当職の私設部隊みたいなもんナリ」
「いやでもさすがに、その、露出というのは……」
Yくんがなにかしらモゴモゴと言っているそのとき、事務員が来客を告げた。件のM上が入って来る。
名刺交換をして、適当な世間話をひとつふたつ。
「しかし先生、現代にいたるまであの規模での炎上というのは類を見ないものであるわけですが」、ジャーナリストは言う。「相当なご心労なのでは?」
「やはりうつ状態になりました、夜寝られないとか」、もちろんメディア用の回答である。
「ははあ。では先生は、そういった逆境をどうやって乗り越えたのでしょう?」
む、と言葉に詰まる。まさか「ロリドル鑑賞」とは言えないことくらい当職でも想像はつく。以前テレビ局のインタビューでそうこたえて、Hに叱られたのだ。
Yくんが心配そうにこちらを見ているのが視界の端に入る。
――まあ安心したまえ、Yくん。今日は良い知識を手に入れたからね。
当職は胸を張ってこたえた。
「ときどきカラニーするんです。それですっきりするんですね、実は」