5 - 5/6 (sage) 2016/03/04(金) 13:12:18 ID:iJxOtsJI
なんともまあ、めずらしいこともあったものである。あの先輩が当職をほめるとは。
「ふふん、当然のことナリ」、実に愉快な気分で当職は言い、ついでに思いついて付け足す――「先輩もしているナリか? カラニー」
瞬間、驚いたことに先輩は激しく赤面するとうつむいた。
――いったいこれはどうしたことか。
上級国民として他人の心配くらいはしてやるので、いたわりの言葉をかけてやる。
「先輩どうしたナリ? 風邪でも引いたナリか?」
しかし先輩はこたえない。
ただ耳まで赤く染めてうつむくきりである。
普段「ああ言えばこう言う」を地で行く先輩がこうも黙り込むとは少々様子がおかしい。
さすがに気になったので身を起こし、先輩の耳元で話しかけてみる。
「まさかカラニーが何か引っかかったナリか? 遠慮なくすればいいナリよ? カラニー」
あいもかわらず赤面したまま無言である。わずかばかり身を震わせているのはなぜであろう。
「先輩、何を恥じているナリか? カラニーは自由ナリよ。……ひょっとしていつもしているナリか? カラ――「帰る!」
先輩は叫ぶと事務所を飛び出していった。
あの人が台風のように来たかと思えば去っていくのは常であるが、当職の発言に一言も返さず逃げ出すとはめずらしい。
再びソファに寝転がり、まったく今日はどうもいろいろと妙なことつづきだなあ、と耳をほじりながら考える。
「あれ、もう帰っちゃったんですか?」、新たに茶を汲んできたYくんが不思議そうに言う。「お茶を淹れたんですけれど」
「なんか知らんけど、『カラニーしてるのか』ってきいたら逃げてったナリ」
「へえ、あの人も案外シャイですねえ」、Yくんはカラカラと笑った。「そこへいくと、まったく動じないKさんは流石だなあ」
「当たり前ナリ、当職を誰だと思っているナリか」
そのときボーンと柱時計が鳴った。お昼の12時、当職の終業時間である。有能は非常に効率よく働くので無能と違い日々3時間労働で済むのだ。