ときどきカラニーするんです (48)

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5 - 5/6 (sage) 2016/03/04(金) 13:12:18 ID:iJxOtsJI

 なんともまあ、めずらしいこともあったものである。あの先輩が当職をほめるとは。

「ふふん、当然のことナリ」、実に愉快な気分で当職は言い、ついでに思いついて付け足す――「先輩もしているナリか? カラニー」

 瞬間、驚いたことに先輩は激しく赤面するとうつむいた。

 ――いったいこれはどうしたことか。

 上級国民として他人の心配くらいはしてやるので、いたわりの言葉をかけてやる。

「先輩どうしたナリ? 風邪でも引いたナリか?」

 しかし先輩はこたえない。
 ただ耳まで赤く染めてうつむくきりである。
 普段「ああ言えばこう言う」を地で行く先輩がこうも黙り込むとは少々様子がおかしい。
 さすがに気になったので身を起こし、先輩の耳元で話しかけてみる。

「まさかカラニーが何か引っかかったナリか? 遠慮なくすればいいナリよ? カラニー」

 あいもかわらず赤面したまま無言である。わずかばかり身を震わせているのはなぜであろう。

「先輩、何を恥じているナリか? カラニーは自由ナリよ。……ひょっとしていつもしているナリか? カラ――「帰る!」

 先輩は叫ぶと事務所を飛び出していった。
 あの人が台風のように来たかと思えば去っていくのは常であるが、当職の発言に一言も返さず逃げ出すとはめずらしい。
 再びソファに寝転がり、まったく今日はどうもいろいろと妙なことつづきだなあ、と耳をほじりながら考える。

「あれ、もう帰っちゃったんですか?」、新たに茶を汲んできたYくんが不思議そうに言う。「お茶を淹れたんですけれど」

「なんか知らんけど、『カラニーしてるのか』ってきいたら逃げてったナリ」

「へえ、あの人も案外シャイですねえ」、Yくんはカラカラと笑った。「そこへいくと、まったく動じないKさんは流石だなあ」

「当たり前ナリ、当職を誰だと思っているナリか」

 そのときボーンと柱時計が鳴った。お昼の12時、当職の終業時間である。有能は非常に効率よく働くので無能と違い日々3時間労働で済むのだ。