4 - 4/10 (sage) 2016/02/14(日) 21:54:23 ID:oD9hA9Ko
「儀式」、僕は彼の言った聞きなれない単語を繰り返した。「儀式って、どういう意味かな」
「……忘れないようにするため、ナリ」
「僕を?」
返答のかわりにひとつうなずくと、Kは腕に刻み込んだ僕の名前をそっと撫ぜた。
血小板によって凝固されつつある血液の上を、丸々と肥えた指先が触れてゆく。
「これは、儀式ナリ」、再びKは言った。
僕は返事の代わりに煙草を灰皿でもみ消した。
***
忘れないようにするためなのだ、と彼は言った。
忘れないようにするための、《儀式》なのだと。
それは半分ほど本当だとは思う。
しかし、すべての理由ではないと僕には思える。
彼は無意識に、もしくは《意図的に》、いくらかの理由を隠しているのだ。
でも、そんな理由を詮索したって、何も変わりやしない。
だってKの握ったコンパスの針は、今日も確かに、赤く錆びているのだ。
僕の名前をその左腕に刻むために。