10 - 10/10 (sage) 2016/02/14(日) 21:59:16 ID:oD9hA9Ko
「……おい。おい!」
乱暴に揺さぶられて僕は目覚めた。
いつものようにホテルの一室に居ることに気づく。性交のニオイが残る室内。
「大丈夫かよ」と恋人は言った。「なんかお前、すごくうなされてたぞ」
僕は醒めきらぬままにぼんやりと恋人の顔を見つめ、それから微笑んだ。
「大丈夫ですよ。何の問題もありません」
「びっくりしたぜ」、煙草に火をつけながらその人は言った。
「あんなにうなされてる人間なんて、生まれて初めて見たよ」
ちょっと一服するぜ、と言ってベッドから降りる。オレンジ色の電灯が淡く室内を照らし出す。あの日の夕陽のように。
その人はこちらに背を向けてしばらく煙を吐いていたが、「もう一眠りするか」と言って僕の方へ向いた。
その瞬間のその人の表情は、とてもなじみ深いものだった。
僕がKのそれを目撃したときに、きっと同じような顔をしたに決まっているから。
「……お前、何やってんだ、それ」、一音ずつ区切って放たれる言葉。
僕は返事をせずに微笑むと、腕の傷口をそっと撫ぜた。
「これはね、儀式みたいなものなんですよ」
***
僕の握ったコンパスの針は、今日も赤く錆びている。