3 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2016/02/13(土) 22:09:57 ID:7z8PVDtw
彼はいつもの床に腰を下ろした。
万年床になった布団からは湿り気からくる独特な匂いが放たれているが、彼の鼻はその匂いを認識できない。いつものことだから。
常備してある赤いきつねにケトルから湯を注ぎ三分待つのだが、熱湯を吸い伸びゆく乾麺が彼には腹から漏れ出した糞まみれの腸に見えて仕方がない。彼の歓喜の表情は変わらずであった。
成し遂げた男の目にはすべてが違って見えている。
PCを立ち上げると迷わず彼はエンタープライズ号の艦長みたいな通称で呼ばれる掲示板を開いた。
「ウィリアム・シャトナーはなんでもゲット」
トレッカーを若干コケにしたルーカスの犬どもが作ったあの映画の台詞を静かに、しかし力強く呟いた。彼はなんでも手に入れるヒーローなのだから。
化学薬品まみれになったジャック・ニコルソンみたいな笑みを浮かべた彼は、羆が鋭利な爪を立てるように固定された手をかざし、マットと記念撮影をした。
「待たせたなァ」
彼は自分が何になりたかったのか解らなくなっていた。
ヒーローなのか、アンチヒーローか。あるいはヴィランなのか。
「うーうーうー!」
赤いきつねの麺が汁を吸いきった頃には彼は消え去り、床には巨大な腐ったジャガイモが遺されていた。