審判者 (26)

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4 - 4/5 (sage) 2016/01/31(日) 10:39:58 ID:CPSm6tVA

「……Hさんは、認めたよ」

 Yが静かな声で告げる。

「今はちょっと、まあ――《イカれて》る――けどさ。正気を保った最後の瞬間には認めた。『ワシがやったんじゃ、息子は何も悪くない、責めるならワシだけにしてくれ』ってね……。いやはや、素晴らしい親子愛じゃないか。涙が出そうだ。うれし涙が、さ」

 ――だって、発狂する間際に頼まれた約束を破るだなんて、最高に愉快だろう?

 言葉がKの脳髄にしみ込むまで、長い時間を要する。
 のろのろと見上げたKを、氷のようなまなざしが捉える。

「今からきみを拷問する」、Yは夕飯のおかずを決めるような軽い口調で言う。
「安心してくれよ、僕は案外そういうサディスティックな事柄には興味を持っていてね……そう簡単に死なせはしない。発狂させもしない。実験動物みたいに、丁重に、優しく、そしてどこまでも残酷に扱ってあげるよ、K」
 
 ――ねえ、M奈、まずは何がしたい? 股裂き? うん、まあ、ありがちだけど、悪くはないな。
 どちらかといえば僕は音攻めや暗黒でのロウソクによる恐怖、額に水を滴らせることなんかの精神方面への拷問が大好きなんだけど――きみが望むなら、そうしよう。
 うん、遊ぼうね、M奈。徹底的に。この醜い男で。僕らは《審判者》として、正しく、遊ぼう。

 虚空に話しかける男をKは眺めることしかできない。
 彼の中の《現実》は、ゆったりとしたテンポで崩れ始めている。これからの自分がどうなるか、それをひどくのろいテンポで学習していこうとしている。
 あるいは彼はそれを拒否しようとしているのかもしれない。《現実》に背を向け、すこし前までの平穏な日々に思いを馳せようとしているのかも。

 Yが歩み寄って来る。ヒッ、と喉からかすれた声を出して後ずさりする。
 肥えた背が冷たい壁にぶつかる。もう逃げ場はない。
 視界に映る男が唇のはしを釣り上げるのが目に入った。