審判者 (26)

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1 - 1/5 (sage) 2016/01/31(日) 10:35:33 ID:CPSm6tVA

 重い音を立てて金属製の扉が開いた。

「エサの時間ですよ、Kさん」

 入ってきた長身の男は、ぐったりとパイプ・ベッドに横たわっている小太りの男に向かって言う。
 小太りの男は緩慢な動作でそちらを見、再び壁に顔を向けた。
 長身の男――Y――はため息をつく。

「いつまでそうやって、強情を張るつもりですか?」

 小太りの男は何もこたえない。
 地下室の一室、その漆喰の壁をただ見つめている。

「……僕だってね、正直なところあなたにこんなモノを与えたくないんだ」

 Yは言うと、薄いスープと粗末なパンが載せられたトレイを見つめた。

「はっきり言って、あなたがここで餓死しようがどうしようが、僕にとってはかまわないんです。だというのに僕はチャンスを与えているんですよ? 少しは感謝したらどうですか――M奈にね」

 M奈。

 その名前を聞いた瞬間、小太りの男の肩がぴくりと動いた。

「……彼女は、公正と誠実を掛け合わせたような女性だった。あなたとは大違いだ。親の庇護のもと、甘やかされ続けた七光りなんかとは、ね」

 Yはパイプ・ベッドわきに備え付けられた粗末なサイド・テーブル――いや、それを「テーブル」といってよいものかは怪しいものだが――にトレイを乱暴に置く。
 ガシャリとした金属同士の衝突音が、いくらかくぐもった響きを立てて地下室の壁に吸収されてゆく。

「僕は、今、あなたをここで首を絞めて殺したっていい。法律上の裁きを受けたっていい。……なぜだかわかります?」

 ――わかる、ナリ。
 Kは頭の中だけでぼんやりと返答する。
 ――もうその話は、ここに閉じ込められてから、2783回は聞かされた話、ナリ。

「それは本当の《裁き》ではないからだ」、Yはその2784回目の言葉を口にする。

「この事実の真の《審判者》は、検事でも警察でも、それ以外の「正義」をかざすバカげた存在でもない……M奈の遺志だけなんだ」