7 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2016/01/30(土) 18:07:59 ID:Av5f203M
唐澤貴洋は静かに座り、目を閉じて腕を組みながら検察側と小関直哉の主張を聞いていた。
「では次に弁護側の主張をお聞きします」
裁判長が彼に話し掛ける。 法廷内の人間の視線が彼に注がれる。 こほん、と咳払いをして立ち上がり彼は始めた。
「まず検察側の主張について確認します。 あなた方は小関直哉くんが七十五年前の日本人に救いを見出して自分の現実から目を背けている惨めな人物だ、仰りましたね。 ゆえに情状酌量の余地は無い、と」
唐澤貴洋は微笑みながら法廷内を目線で軽くなでる。
「しかしそれを悪とすること自体、間違っているのでは無いでしょうか。 小関くんは彼女どころか友達もまともにおらず、日々をゴミのような文章作成と自慰行為に費やしているような人間です。 そんな人間が自分自身に、普通の人間が持つような誇りや自信の類を見出すことが果たしてできるでしょうか」
落ち着いて、なおかつ抑揚のついた調子で唐澤貴洋は話し続ける。
「遥か昔の別人にしか誇りを見出せない、そういった価値観は我々唐澤の国の人間には理解しがたいものかもしれません。 しかし価値観というものは国によって、下手をすれば山を一つ越えれば全く異なるほど、恣意的で不安定で相対的なものなのです。 価値観が我々に理解不能であるからといって、その相手を否定する、これはいけない。 そんな行為は価値観の押し付けであり、およそ文明国の人間がすることではありません。 しかるに検察側の主張は単なる印象操作以外の何物でもありません」
唐澤貴洋が言い終えると、検察官は痛い所を突かれたといった顔で唇を噛み締めた。
「弁護側の主張は以上ですか」
裁判長が尋ねる。
「検察側への反論は終わりです。 ですがもう一つ、当職が明らかにしておかなければならないことがあります」
唐澤貴洋がそう答えると、裁判長、裁判官、検察官、書記官全員がきょとんとした顔をして彼を見つめる。
「小関くん」
唐澤貴洋は被告人席の方に向き直り、そう呼びかける。
「君は、一つ、
とてもとても大きな真実を隠している。 そうですね」