5 - 5/8 (sage) 2016/01/25(月) 00:07:10 ID:x6x6OrKc
裏通りの奇妙な店が繁盛していると聞いたのはそのころだった。
なんでも情報を売っているらしい。
僕は興味本位でその店を覗きに行くことにした。東の国の情報はいくらあっても困らないのだ。
店の扉を開けた瞬間、大量の視線が僕に注がれるのを感じた。
「すみません」、居心地の悪さを感じながら僕はそばにいた男にたずねた。
男はこたえず、じっと僕を見ていた。
「すみません。東の国の情報が欲しいんですが」と僕はもう一度話しかけてみた。
男はまだ僕を見つめていた。とても冷たい眼差しだった。
「……そんなものはない」、煙草を投げ捨てると男はようやく口を開いた。「ここにあるのは西の国の情報だ」
「でも、ここは西の国ですよ」と僕は言った。
「だから売れるんだ」と男は言った。「西の国だからこそ、西の国の情報が売れるんだよ」
「僕らの敵は東の国のはずだ」
「きみもバカだな」、男は唇のはしをゆがめた。
「みんな飽きてるのさ。東の国なんかにはね。リアクトのもらえない敵に何の価値がある?」
僕はしばらく無言で男をながめていた。
店中の人間が僕に視線を注いでいるのを感じた。それはとても怖かった。足が震えそうだった。
「いい加減にしとけ」と男は僕をたしなめるように言った。「興味がないなら、ここには二度と来ないことだ」
そうして僕は店から追い出された。