カラドックスとたわむれる (56)

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1 - 1/8 (sage) 2016/01/25(月) 00:04:09 ID:x6x6OrKc

 西の国にある、その工場の正確な名前は誰も知らない。
 便宜的に「カラクリ工場」と呼ばれているが、いつからそう呼ばれだしたのか、誰が呼び出したのか、誰も知らない。
 僕がその工場に就職したのは、冬が近づいてきた秋の終わりだ。
 僕自身について多くを語る必要はないし、知ってもらう必要もない。
 ただ、その工場で働いている西の国の人間であると認識してもらえれば結構である。

 ***

 東の国との戦争が激化するに従い、カラクリ工場でも兵器を製造することになった。
 ある朝、軍服を身にまとった男がやって来てこう言ったのだ――「武器をつくれ」。
 この上なくシンプルな命令だと思う。

 というわけで現在、カラクリ工場では主に「神聖六文字」というものを製造している。
 ……とはいうものの、僕もその「神聖六文字」というものが何であるのかは全く知らない。
 それは6つのパーツを組み合わせて使用する強力な兵器であるのだ、とみなが噂しているのを聞いたことがある。
 噂によれば、1つ1つでは何の意味もなさない部品が、6つそろえばとてつもないものになるのだという。
 まるでおとぎ話に出てくる邪悪な魔女の呪文のように、ひとつひとつの単語ではまるで無価値なものが、すごいものへと変化するのだ、と。
 しかし僕にそれらの真偽を判定する術はないし、噂は噂にすぎない。
 噂話をしている彼らだって、僕よりその真相を知っているかどうかは怪しいものだ。