6 - 6/6 (sage) 2016/01/23(土) 15:36:38 ID:8W8z/Ra6
ボギー1が……何体いるんだ、これ。
事務所を埋め尽くす、笑み、笑み、笑み。
「困りましたねえ」、Yのぼやくような声が後ろからきこえる。「最近どうも、速度が上がっているようだ」
「速度って、なんだ」、かすれた声で俺はたずねる。
「分裂速度ですよ。はじめは1週間ごとに2人になるだけでした。それが1日に1度、1時間に1度、30分に1度、今じゃあ5分に1度くらいのペースになってきている」
「あのさ、Y」、俺は嫌な予感をぬぐうように言う。「オリジナルはどれだ?」
「オリジナル……ああ、最初のKさんですか? さあ……この中のどれかかもしれませんし、出荷した中に含まれていたかもしれません」
――ま、どちらにせよ大した問題ではありませんよ。
Yの淡々とした声が俺の脳内へしみこんでいく。
それは大した問題のような気がする。いや、そうじゃないのか? わからん。俺がおかしいのか? いやいやまさか。
「……帰るわ」、俺は立ち上がる。両足に力をこめないとまともに立てそうにない。
「邪魔したな」
「もっとゆっくりされても構いませんよ?」
「いや、帰る。絶対に帰る」
「「「「ナリナリナリナリナリ……」」」」
事務所のドアを開けた俺の後ろから、無数のボギー1の声が聞こえる。事務所中を埋め尽くす太った男の声が、聞こえてくる。
――このテンポで増え続けると、どうなる。
質量保存だとかなんとかの法則、相対性理論とかいうわけわからんやつ、無から有を生み出すために使われる元素たち。ひょっとしたらこのままだと……。
クソ、文系の俺は理科は嫌いなんだよ。
一瞬浮かんだ考えを振り払うと、足早に事務所を去ろうとしたそのとき。
パカッ。
背後で間抜けな、世界の終わりを告げる音がした。