むげんそんし (35)

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5 - 5/6 (sage) 2016/01/23(土) 15:35:35 ID:8W8z/Ra6

「そろそろ収穫ですね」、Yが言うと組み立てたバカでかいボール箱を持ってくる。
「Kさん、入ってください」
「はいナリ」
 まるで何が何やらわからんが、4人のボギーのうち一匹がのそのそとボール箱に収まった。
 Yは手際よくボール箱を閉じると、ガムテでぴったりとすき間を埋めていく。

「……おい、Y」
「なんでしょうか」
「お前、何やってんの」
「ご覧のとおり、出荷の準備です」
 俺は封印していた頭皮かきむしりをおこなうことにした。今晩のメニューは海藻サラダとワカメスープにしよう。
 はらはらと桜吹雪のように舞う髪の中、Yにたずねる。
「あー……出荷って、どこに」
「それは個人情報保護の観点から言えませんね。まあ通信販売ですよ」
「……売ってるのか、それ。ボギー1を?」
「ええ。売れ行きは至って好調ですよ」
 伝票を貼ったYは、よし、とつぶやくとボール箱を壁際に運ぶ。よくよく見れば壁にはいくつものバカでかいダンボール箱。

「その、なんだ」、俺は湯呑みを手に取って中身が空なことに気づき、机に戻しながら言う。
「用途はなんなんだ。俺にはそんなむさい中年の男が需要があるとは考えられないんだが」
「主にサンドバッグとして、ですかね」、Yがひとつひとつボール箱を確認しながら言う。
「他には特殊な性癖の方や、ふつうのペットに飽きてしまった方などからも注文が来ています」
 世界は広いな。
「そんでひとつ聞きたいんだが」、俺は言う。「ボギー1は無限に分裂しているのか」
「現在のところ、していますね」
 Yはこたえると、「ほら、今16になりました」と後ろを指す。
 振り向くと、プルボギがいつの間にかうじゃうじゃと並んでいた。どいつもこいつも、あのふざけたイラストのように薄ら笑いを浮かべて俺を見つめている。
 その光景に少々めまいを覚えて俺はメガネを外し、目頭をもむ。

「大丈夫ですか」、Yの声がする。「気分でも悪いのでは?」
「いや、平気だ、平気だから放っておいてくれ」、俺はこたえるとメガネをかけなおすと、「トイレ借りるぜ」とだけ言い残して便所に向かう。
 小便をしながら俺は考える。
 1+1=2、2×2=4、ボギー1は無能で俺は有能。聖E様は天使。オーケー、頭は大丈夫だ。
 水を流して便所の扉を開けたとき、かすれた声が喉から出た。

「……おい、また増えてるぞ」