3 - 3/6 (sage) 2016/01/23(土) 15:33:16 ID:8W8z/Ra6
「ねえよ」、瞬間的に浮かんだ思考を言葉にしてもう一度放つ。
「いや、ねえよ。え? アレだろ? 細胞分裂っていうのはその、もっと小さな単位で発生するものだろ? 高校んとき生物でやったぜ」
俺は立ち上がり、後輩のそばへ恐る恐る近寄りながら言う。
俺を見つめる4つの瞳。三日月型のブッサイクな瞳。左右のアシンメトリー具合まで完全に一致してやがる。
「おいボギー1、いったいどんなトリックを使ってるんだ? え? いつも俺にからかわれるからって、仕返しか?」
「だから細胞分裂ですって」
背後からYの心底呆れた声が飛んでくる。まるで九九のできない生徒にあきれ果てた教師のようだ。
もう何から指摘すればいいのか少々わからなくなってくる。前から感じていたが、この事務所では世間一般の常識が崩壊していく気がしてならん。ここはアッシャー家か。
俺はとりあえず目の前のボギー1を問いただすことにした。
「おい、お前ら、本当に両方ボギー1か」
「「声なき声に力を」」
恐ろしいことに目の前のパカデブは2人そろって返事をする。声がぴったり合っているのが少しむかつく。
「あー……お前ら、今のは細胞分裂したのか」
「「はいナリ」」
「なるほど、なるほど」、俺はとりあえず返答に困った際によく発する言葉を使用する。便利だから覚えとけ。
「そんでお前ら、両方……あーなんて言うんだ、その、生きてるのか?」
「「はいナリ」」
「別個体であるという認識はあるのか? つまりは、意識は切り分けられているのか、ってことだが」
「「はいナリ」」
なるほど、なるほど。俺はうなずき、己を無理やり納得させて結論を出す。
「クローンみたいなもんだな」
「「ちがうナリ」」
ちがうのかよ。俺は頭をかきむしりたい衝動に襲われる。これ以上俺の頭皮をいじめんでくれ。