日常の境界 (27)

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3 - 3/3 ◆ilWjQe6sGk (sage) 2016/01/09(土) 01:35:17 ID:KmpREVnw

いたずらっぽい笑みで、足取り軽やかにステップを踏んでいる綾乃。
それを見ていて、一つ思い出したことがあった。
「月夜の舞踏会……?」
都市伝説なのか、それとも本当のことなのか。
猫の集会。
華麗に踊る彼女は、その中で一番踊りの上手い猫に見えたのだった。
「お仕事頑張ってね☆ ばいばーい!」

そうして、彼女は消えた。
路地を曲がった瞬間、裕明は弾け飛んだように走り出したのだが、角を曲がると、彼女はもういなかった。
頭を振ってみるが、ぐらぐらするばかりで何も起きない。
公園に戻ると、冷え切った缶コーヒーが一本、置いてあるだけだった。

***

「遅いナリよ裕明! たかが弁当一つに何時間かけてるナリ!!」
「たかが開示一件に何ヶ月かけてるんですか、貴洋さんは」
唐揚げ弁当2つ。
お茶とスポーツドリンクのペットボトルが1本ずつ。
時刻は既に、タクシーでないと帰れなさそうな時間帯へと突入しかけていた。
しかし、裕明の心に鬱屈したものは溜まっていなかった。そう、深夜残業の今でさえも。
懐に入った一枚の名刺。それだけで、心が洗われるような気がしたのだ。

──この、糞にまみれたような世界から。