不可視光/しびれ、ときどき、めまい (49)

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17 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/11/09(月) 23:44:05 ID:kPaKyqPA

 外気とはまた別の、冷たい感触が胸の内を垂れ流れていく。瞬間的に浮かんだ複雑な感情を表現する言葉をさがし、やがて何もないことに気づく。
「……そうですか」
 ようやく絞り出せたのは、あまりにも情けない一言だけ。
「未練たらったらなら、最後にいっぺん相手してやってもいいぜ」
 白い指がネオンを指さす。
「お前が腰ふってるあいだ、テキトーに声だけ出すさ。明日の予定でも考えながらな」
「僕は、それほどみじめに見えますか」
「見えるね」、双眸が僕を見据える。「お前はな、結局しびれもめまいも得られなかった。そうだろ」
 僕は思わず黙り込む。どこかの家で犬が遠吠えし、それを叱る飼い主の声がする。
 沈黙を肯定と受け取ったのか、再び口を開く。
「お前はどこへ行っても、手にいれられないな、そういうの。……他のやつと今どうなのかは知らねえけど、きっとそうさ。いつかは失う」
「なぜでしょう」
「見えてないんだよ。見えてないくせして、全部をうまくやり過ごそうとしてるんだ。そうだ……お前には、色がみえてない」
 色?
「試してみるか」
 歩み寄ってくると、軽く唇を重ねられる。
「な、やっぱりだ」、視線を横にやって放たれた声はどこまでも寂しさを帯びている。「お前のキスは過去最高のマズさだよ」
「……わからないな」
 無言でその人は爪先立つと、僕の頬を上から下までそっとなでる。僕は身動きもできずに立ち尽くしている。
 顎に手をやってしばらく僕を見つめると、もう一度唇を重ねられる。視界の隅で重なり合う2つの影。
 やがて離れたその人は、薄い笑みを浮かべていた。
 今までみたこともない、とても優しい微笑だった。
「これだけ言ってもわからんようじゃあ、ハルポッポ曹長の相手はつとまらんな。……Y、俺は結構気に入ってたんだぜ、これでもお前とのこと」
 じゃあな、と踵を返した背中になにか言いかけ、僕は口をつぐんだ。
 街灯に照らし出されるのは、ひとつの影だけだ。