不可視光/しびれ、ときどき、めまい (49)

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10 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/11/09(月) 23:38:51 ID:kPaKyqPA

◆5

 その晩僕はKと寝たわけだが、その自分を客観的にみた際、はたしてどう評価すべきなのか迷う。
 おそらくは、Kはすべて策略をめぐらして機会を待っていたにちがいない。
 彼がいつからそういった欲望を僕に抱いていたのかはわからないが、きっとそれは長い時間だったのだろう。
 僕が精神的に参っているところに、出かける誘いを仕掛ける機会を、まるで砂の中で獲物を待ち続けるサソリのように、待っていたのだ。
 ……そうだ、僕は確かに参っていた、それは認めなければならない。
 予定帳の穴は埋めていたが、何らかの空虚な部分はすっぽりと僕の内部に存在していた。
 それはとても小さな空洞だったかもしれないが、必ず時折風が吹き抜ける瞬間があって、そのたびにしくしくと痛み、その存在を僕に伝えてくる。

 しかし、いずれにしたところで、僕にKを責める資格がないことは明らかだろう。
 選択のあとには結果だけが残り、その結果を積みあげることで人生は成立してゆく。
 僕は彼に誘惑され、そして寝た。それだけのことだ。

 もちろん、僕のスマートフォンにひと月連絡を寄越さなかったその人に対して、何か、罪悪感――という表現で正しいのだろうか?――のような感情をおぼえなかったわけではない。
 その人が僕以外に性的パートナーを持っていなかったことはおそらく事実だし、そのまま進めば僕らの関係は一歩進んだところへいっていたのではないか、と。
 うぬぼれるな! と脳が警鐘を鳴らす。
 お前はそんなに出来たやつだったか? おまけに、そこにはしびれもめまいもないというのに。
 
 そう、問題はしびれとめまいだ。僕はそれをずっと求めている。
 僕はKと戯れたその時間、確かに脳の奥にしびれを感じた。鋭く本能を直撃するような、理性を麻痺させてくれそうな、しびれ。
 そしてそこには時折めまいも混ざった。くらくらとしてしまうような、あまりにも甘すぎるニオイのせいで脳天がやられてしまったかのような、めまい。
 ――別に恋人だったわけじゃないんだ、どうでもいいじゃないか、あんなやつ。
 片一方の僕は言う。
 ――最低だな。きみは何よりも優先して、まずは関係の修復につとめるべきだったんだ。
 もう一方の僕は言う。
 ――お前はどうしたいんだ。
 両方の僕が言う。