不可視光/しびれ、ときどき、めまい (49)

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1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/11/09(月) 23:31:54 ID:kPaKyqPA

◆0

 幼い頃、それがとても残酷なこととは知らずに虫をいじめたことがある。
 アリの巣に水を注ぎ、ダンゴムシが白く干からびるまで採集箱に閉じ込め、カラツムリの殻をくしゃりと踏みつぶす。
 それをすることができたのは無知であったから、つまり《その痛みを知らなかったから》で、今の僕にそういったことをおこなうことはできない。
 経験や教育、知識に裏付けされて僕らの行動には規範がつくりあげられ、あれはいい、これはいけない、議論はよい、ただし暴力はNGといった調子でそれらを守る。社会はそれで成り立ってゆく。
 ここになにかあるとしよう。
 本の一冊でもいい、林檎でもいい、剥ぎ取られたナンバープレートだっていい。 
 もしも僕がひどく無知であれば、その扱いをまるで知らなければ、手に取って散々いじくりまわした挙句、それを手ひどく傷つけてしまうのかもしれない。
 本はページを破り取られる。林檎はアシンメトリに割られる。ナンバープレートは8つに分解される。
 何一つ遠慮することなく、何もわからないままに手探りだけで行動するならば、物事のきわめて繊細な部分を、僕は遠慮なく踏みにじっていくのだろう。
 その本質ともいうべき部分を。
「めんどくさいやつだなって、あとで誰かに話すんだろ」と、その人は言った。
「どうしてずっとひとりにさせたんだ」、とも。
 心なんて、風見鶏のようにすぐ別の方角をむいてしまう不安定なものだし、2か月という期間は様々な状況を変化させるには十分に過ぎたと思う。
 でも確かに僕は、あまりにも気安く、その人の一部に触れてしまったのだ。
 あの日溺れさせた数多くのアリの中の、ちっぽけな一匹のように。