現実 (12)

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1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/11/05(木) 08:45:15 ID:L8Wipo1s

2020年、唐さんが長谷川亮太さんの依頼を受けてから何年経っただろうか。
未だ炎上は収まらず、むしろ勢いを増して燃え盛るばかりだ。
その起因には2018年に起きたある事件の影響が大きい。唐さんの痴漢冤罪事件である。
一応断わっておくが、唐さんはネットで吹聴されている様な下品な人物では無い。
確かに依頼人をすぐに見捨てたり、詐欺紛いの商売をしていることは否定できないが、それは本心からの悪では無く、彼の心の奥に潜む暗い影が由来していることを僕は知っている。
唐さんの痴漢が冤罪だと言うことは、そばで見ていた僕の証言もあって奇跡的に証明されたが、
炎上の火をますます燃え盛らせるには十分な失態だった。ニュースでも取り上げられ、大いに顔が晒された。
その事件がきっかけで、少しネットを利用する人ならば知らない人は居ないほどのコンテンツまで膨れあがってしまったのだ。
今までのように気軽に町を歩くことなど出来なくなり、出かける時はマスクに黒尽くめの格好をしなくてはいけなかった。

そしていつものように、僕たちが出張の為に駅まで出向いたあの日、洋氏は死んだ。

表向きには線路への転落と言うことになっているが、本当は違う。駅のホームで電車を待っていた折、洋氏の姿が周りにばれ、堂々と盗撮をしだした聴衆と取っ組み合いになったあげく、線路に落ちたのだ。

白モミがいる。出龍がいる。
そのざわめきは瞬く間に広がり、ホームには携帯のカメラで洋氏の姿を収めようとするもので騒然となった。
シャッターの音で埋め尽くされるホーム。温厚な洋氏も限界だったのだろう。一人の男に掴み掛かった。
「もうやめてくれ!!!!!いい加減にしてくれ!!ワシの息子が悪いことをしたのはワシが謝る!!だがもういいだろう!!いつまでワシらを苦しめるんじゃ!!!」
涙を流しながら掴み掛かった洋氏を見ながら、僕は何も出来なかった。いや、何もしなかった。 騒動の一員になるのが怖かったのだ。
唐さんも同様にもじもじしながら知らぬ振りをしていた。
「ほんまもんの白モミやんけ!!!すげええええ!! てかいい加減離せっつーの!!」
勢いよく振り払われた腕によってバランスを崩し、洋氏は線路に落ちた。刹那、轟音と悲鳴が響き渡り、そして肉塊になった。

人脈も広く、会計士会に彼を尊敬する人物も多かった洋氏の死を悲しむ人は少なくなかった。 同時に、なぜ彼が死ななければならなかったのかと皆が疑問に思った。
疑問の矛先が向いたのは唐さんである。有能な会計士の息子として生まれながら、詐欺まがいの商売で悪名を欲しいままにしたバカ息子。
洋氏を炎上に巻き込み、死に追いやった確信犯。何故だ、何故お前が生きている。
同業の弁護士からの視線も、前にもまして冷たくなっていった。

自殺未遂によって重症を負い、病院のベッドに横たわる唐さんが静かに口を開いた。