雨粒の共犯者 (22)

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4 - 4/5 (sage) 2015/11/02(月) 16:15:40 ID:TnIKoDPQ

「あーやめ、やめだ! オラ!」
 両手足をいっぱいに伸ばし、わざと大きな声を出して思考を振り払う。思考の渦に巻き込まれるほど無駄なことはない。
「すみませんが」、鋭い視線がこちらを捉える。
「今少々危ない橋を渡っている最中なので、静かにしていてもらえませんか」
 今日はじめて、向こうからこちらに視線を投げてくれた。
 にやけそうになるのを隠そうと、唇のはしをシニカルに持ちあげて見せる。
「なあ、Y」
「なんです?」
「しようぜ」
 軽い口調で放つ誘い言葉。枕元に落ちている白い箱をカラコロと振って中身を確認すると、口元をほころばせる。
「ラッキー、1コ残ってる。全部使ったかと思ってた」
「……あのね、今はそんなことしてる場合じゃないでしょう」
 あれあれ?
 わざとらしく声を出してデスクに歩み寄ると、マウスを握る手にそっと己の手を重ねささやく。
「昨日の夜、女みたいに気色悪い声出してよがってたのは、どこの誰でしたっけ? Y君」
「……今は昼です」
「苦しい言い訳だな。ハルポッポ曹長は、きみの射精に要する《きわめて》短い時間もこの数週間の逃避行でしっかり把握したんだぞ」
「Kさん」
 真剣な表情に気圧されて「なんだよ」とこたえると、Yは重ねていた手をそっと払う。
「もう、やめにしませんか」
 無言で見返した視界に入る無表情。その瞳には、さらに人の姿が映っている。そいつも無表情。いや、もっとひどい。うつろだな。
「……むなしすぎますよ、こんなの」
 部屋に雨の降り注ぐ音だけが響く。数秒か、数十秒か、あるいはもっと。
「あっそ」、一歩下がると腕を頭のうしろで組む。「知らねえぞ、あとで後悔しても相手してやんねえからな」
「間に合ってます」
「……あっそ」
 ぽい、と箱をゴミ箱へ投げる。ミス2。
 舌打ちをして拾い上げ、ゴミ箱に投げ込むと、方向性をうしなった性欲はペットボトルとぶつかって間抜けな音を立てた。