1 - 1/5 (sage) 2015/11/02(月) 16:12:52 ID:TnIKoDPQ
あいだーこいだーまけるなーがんばれー。
……ああ、うるせえ。
ベッド脇に設置されたラジオから流れてくる、どっかの誰かが歌うくだらないバラードを耳に流し込みながら、外を眺めていた。
ゆるゆりの主題歌でもかからねえかな、と思って朝からつけっぱなしにしているが、どうもこの局はお行儀のよい曲しか流さないポリシーがあるらしい。
安っぽいビジネス・ホテルのツイン。カビくささと、昨晩の名残がある部屋のニオイ。ろくに掃除もされていない窓を、大粒の雨が叩いている。
強い邪風のせいだろうか、ザアザアとしたその雨粒たちは斜めに天から降り注ぎ、丸い斑点を残しながらガラスを垂れていく。
「……運の悪い雨粒どもだ」
なんともなしにその光景を見つめていると、そんな言葉が口からこぼれた。
あの雨粒たちは、人々に毛嫌いされるためだけにやってきた存在にすぎない。やれ洗濯物が干せないだの、邪魔だの、気が滅入るだの、好き放題言われるためだけの存在。
そうして彼らのうちいくらかは蒸発し、いくらかは土にしみこみ、それらは再び黒い雲を形成して、きっとまたいつの日かこの街へと降ってくるのだ。
うまく川に降り注げたなら、そのしずくはいつか海まで旅することができたかもしれないのに。
うまく海に降り注げたなら、大海の一滴として世界を漂うことができたかもしれないのに。
うまく自分たちの世界に溶け込めたなら、その世界の中だけで生きていくことができたのに。
こんな汚い街に、しかも11月みたいなハンパな月に、降りやがって。
街中のやつらにそのせいで疎まれるんだ、連中は。
いっそ次はクリスマス・イブにでも、うまいこと雪として降れたらいいな。そうすりゃみんな歓迎してくれるさ。
「まったく、運の悪い連中だよ」
確認するように再度つぶやくと、寝そべったベッドの上、退屈交じりに猫のように体をくねらせる。いや、退屈しているヒマなど無いのだが。
垂れた髪が、首筋に一筋の線を描く。それを指で絡め取りながら、声をかける。
「な、お前もそう思うだろ、Y?」
すこし待ったが、返答はない。
振り向いて、この部屋にいるもうひとりの存在を確認する。素晴らしくこちらを無視した男は、小さな備え付けのデスクに載せたノートPCとにらめっこ中だ。
その横顔を少々観察してみる。唇を真一文字に結んだ険しい表情が、ため息交じりの呆れ顔へと変わり、ちょっと緩んだかと思うと、再び険しい顔へ。
すぐ顔に出る奴だ。あんなんでよく、今まで勤まったもんだね。
体を起こすとラジオのスイッチを落とした。狂ったようにポジティブ・ワードを垂れ流していた物体は、瞬間にただの無機物と化す。
ころころ変わる表情の観察も中々に楽しいが、無視されたままはつまらない。
「おーい、Y。Yちゃん? Yくん!」