ありがちなミス (19)

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2 - 2/4 (sage) 2015/10/22(木) 21:05:04 ID:D2LM/npI

「なんとかして、って言ってもなあ、ボギー1」
 風俗弁護士が手に持っているビンをカラコロ、カラコロと振りながら言う。真新しいビンの中には、ほんの数粒の錠剤。ラベルには「下剤」の二文字。
「下剤を一瓶だぜ? 一瓶お前に飲ませて、それでも出ないってんだからどうしようもねえよ」
「もっと買ってきましょうか。一瓶じゃなくても、もっと量があればなんとかなるかもしれない」
「……おそらく、当職に下剤は効かないナリ」
 長机の上の男は淡々と語る。
「どうして言い切れる? 試してみなきゃわからんぞ」
「わかるナリ。わかってしまうナリ」
「あのな、ボギー1」、風俗弁護士が呆れた調子で肩をすくめる。
「俺は論理的な説明を求めてるの! ワカルナリ~ってんじゃこっちがわからねえんだよ」
「ちょっとKさん、言いすぎじゃ――」
「いいナリ、Y君。当職の説明不足ナリね」
 長机の上の男は、ほう、と息を吐くと、天井を見つめながらぽつぽつと語り始める。
「当職が中学時代にとあるトラウマを抱えていることは知っているナリね?
 ……ああ、いいナリよ、知らないふりしなくたって。(ここで弁護士K弁護士は聖母のような微笑を浮かべた)
 ネットでは悪いものたちによってこの事がコピペにされ、挙句の果てには動画にされているナリ。2人が知らないはずないナリ」
 風俗弁護士が腕を組み、少々バツの悪そうにそっぽを向く。
 Yはうつむいて両指を組み合わせ、居心地の悪そうに手悪さをする。
「大切なのはここからナリ。当職はその中学時代のトラウマによって、ティーンエイジャーの後半をひどい便秘で過ごしたナリ。
 具体的に言うと、大便をすることができなかったナリ。
 便座に座って力んだ瞬間、当職の脳裏にはあの忌まわしき教室での出来事がよぎったナリ。
 男子のあざけるような視線、教師の呆れた視線、女子のドン引きした視線、そして初恋のあの子の、軽蔑の視線……そういったものを思い出してしまい、大便をすることができなかったナリ。
 でも、人間、便をせずに生きていくことはできないナリ。だから……」
「……下剤を使っていた、と?」
 風俗弁護士が引き取ってたずねる。
「その通りナリ。(ここで弁護士K弁護士は膨れ上がった腹をぽんぽんと叩いた)そんな日々のなかで、当職のおなかはもう、下剤の刺激にすっかり慣れてしまったナリ……」
「なるほど」
 言うと風俗弁護士は不意に立ち上がり、長机に横たわる†K†に深々と頭を下げた。
「すまん、ボギー1! 俺のせいでお前は自分の恥部をさらけ出す羽目になってしまった!」
「気にしなくていいナリ」
 真理の御霊最聖Kは微笑を浮かべ彼を赦す。
「いつかはみんなにも話そうと思っていたことナリ。それにもう過去の話。当職は過去を振り返るばかりの男にはなりたくないナリ。俺は俺の20年後を見ている」
 そこでたまらず、うぅっと泣き声を上げたのはYだ。
 その姿は男泣きにふさわしく、目から大粒の涙を、鼻から鼻水をだらだらと垂らしつつも、唇をぐっとかみしめて泣き声を必死にこらえている。
「Y君……ダメナリよ、男の子がこんなことで泣いちゃ。ほら、部屋の隅にちり紙があるから、それで鼻をちーんしなさい」
「うぅっ……僕は、僕は、いつも一緒にいたのに……Tがそんな深い闇を心に抱えていたなんてぜんぜん……」
「T?」
 不意に風俗弁護士の表情が険しいものとなる。
「おい、「T」ってなんだよ、その呼び方。お前らそんなに仲良しさんだったか?」
「あっ、いや、これは……」
 狼狽えるYを風俗弁護士が疑いの眼差しで見る。物騒な人々との関わりによって鍛え上げられた、氷点下の眼差しがYをとらえる。
「あの、その……そ、それよりも、今はHさんを出さないと!」
 熟した林檎のような頬で言うYをなおもジロリとねめつけると、風俗弁護士はふんと鼻を鳴らす。
「そうだな、その通りだ。今の件に関しては後だ……それでボギー1。お前の口調だと、方法はもう見つかっているようだが?」
「流石に、有能ナリね」
 BKBが言う。
「ひとつ思い当たるのは、尿を飲むことナリ」
 Yと風俗弁護士が顔を見合わせた。