1 - 1/4 (sage) 2015/10/22(木) 21:04:28 ID:D2LM/npI
長机に横たわる男は1人+α。机を囲む男は2人。
「ありがちなミスですね」
やや長身の男が言う。
「まあ、ありがちではあるな」
頭髪の幾分寂しい男がこたえ、机に横たわる男+αを見やる。
「しかし、よりにもよって、Hさんが間違えてボギー1の肛門に入ってしまうとは……」
「《よりにもよって》とはなんですか。Hさんを侮辱するような真似はやめてください」
「いや、そういうつもりじゃないって。熱くなるなよ」
はぁ。
2人のため息がハーモニーを奏でる。
賢明な読者諸氏は既に察しているかと思うが、敢えて状況を説明させていただこう。
長机に仰向けに横たわっているのは、「無能」「パカデブ」「真理の御霊最聖なんたら」などと目下ネットで局所的に話題となっている弁護士K弁護士である。
そしてそのKの肛門からは、有能たる父Hの首から下、つまりボディがつるんと飛び出しているのだ。
つまるところ、H氏が少々のミスにより、誤ってKの肛門に己の頭を丸々突っ込んでしまったわけである。
なるほど大騒ぎするほどのことではあるまい。Hは実にありがちなミスを犯してしまっただけなのだ――例えていうなら、何もない道で足がカクッとなるのと同じようなものである。
「だけどさ、Hさんにしてはケアレスミスだぜ、これは」
頭髪の幾分寂しい男――風俗弁護士Kが腕を組んで言う。
「そりゃ確かに、俺たちみたいな、世間の道理ってものをまだまだ学ぶ必要のある連中なら仕方ないさ。
間違えて他人の肛門に首を突っ込むこともある……もちろん、全身を突っ込むことだってな。
でもHさんだぜ。老境の有能会計士が、こんなミスをやらかすとはね」
「誰にだってミスはありますよ」
長身の男、Yが反論する。
「生まれてから一度も、他人の肛門に誤って首を突っ込まなかった人なんていないでしょう。今回はそれがたまたま、Hさんだっただけです」
「あーわかった、俺とお前で騒いでも仕方ないだろ」
風俗弁護士が片手をあげてYを止め、
「今はああだこうだ言うよりも、この事態をどうにかしないとマズいだろうが」と続ける。
「しかしどうしたものでしょうか?」
「一般的には自然に出るのを待つものだな、こういう時は。つまり大腸の蠕動運動を待つんだ」
「そんな悠長にするヒマがないから困ってるんでしょうが!」
「だから熱くなるなって、クソ真面目君め。そんなだから15秒で敗北するんだぞ」
「誰がクソ――」
「2人とも、当職のために争うのはやめてほしいナリ」
久しく言葉を発していなかった男の声に、2人は言い争いをやめると長机に向き直る。
「パパは今晩、会長さんとディナーの予定ナリ。それを欠席する、これはいけない。なんとかしてパパを当職の肛門からつるりと出さねばならないナリ」
横たわった男は、人一人分は裕に入りそうなぷっくりとした己の腹を撫ぜながら、思案にふける表情で語った。