8 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/10/15(木) 00:32:06 ID:vDcoa3A6
8.
机に置かれた重々しい物体をYが指さす。
「ご覧のとおり、学校の図工室にあるような一般的な代物だ。学校の先生が「指を挟んだらダメだよ」ってよく注意してたっけな。そう。指を挟んではダメなんだ」
Kの顔が白くなってゆくさまをじっと見つめ、Yがふっと笑う。
「察しが早くて助かるね。まずはどの指からいこうか?……あ、先に言っておく。絶対に止めない。完全に閉まり切るまで、やる」
「……Y」
左の小指を掴まれたKは、全身の震えを抑えながら言う。
「なんだい?」
「きみは、これで愛が得られると思っているナリか」
「わかってないなあ、Tは」
万力のレバーをぐるぐると回しながら、Yは言う。
「僕のきみへの愛はもう十分すぎるほどある。その純度を高めるための儀式だよ、これは」
「そのうえで、いつか当職が死んでしまっても、それは愛ナリか」
「むしろ、そうするしかないかもしれないね」
みしみしと骨が万力に締め上げられる。
「Y、それは、間違ってるナリ」
Kは激痛に耐えながら言う。
「愛は、必死に、作り上げようとするものではないナリ。ましてや、純粋にしようとするなど――」
ゴキリ。万力が締め切られた。Kが苦悶の声を上げる。
「安心してよ、T」
Yがのたうち回る彼を見つめて笑う。
「僕が君を、完全なる愛の対象に仕立てあげるんだよ。……その行きつく先がどこであろうとね」
暴れるKを抑えつけ、口にハンカチを押し込み、薬指を万力に押し込む。
先ほどのようにゆっくりと回しはしない。
風車のように回転するレバー。
ごしゃりという生理的嫌悪を湧き上がらせる鈍い音。
「僕は拷問によってきみのすべてを取り払いたい。きみを覆っている肩書や、人間としての誇りや意地、尊厳、そんなものをすべて取り払ってみたい。
いずれきみは四肢を無くすだろう。その悲しい姿を見たとき、僕はようやく確信できるはずさ。僕はきみを真に愛していて、そこには奢りも性的な欲求も存在しないのだとね」
Kはすでに正気を失いつつある。
ハンカチを押し込んでいなければ舌を噛み切っていただろう。
訳のわからないことを叫ぶその男を無理やり立ち上がらせ、次の指を万力へと差し込む。
「わかるかい? 僕は自分の愛するKが、肉体や精神といったものを超越した、はるかなる高みにある存在だと証明したいんだ。そこに肉欲は必要ない。精神の共有も必要ない。
僕ときみがそこにいて、その魂を感じることができさえすれば、僕はこの上なく満たされる」
ぐるぐるとレバーが回り、鈍い音。3本目。
声にならないくぐもった叫び声をあげるKに、Yが優しく微笑む。
「ねえK、いつか君にもわかるはずだよ。これこそが純度100パーセントの、混じりけのない、真の愛情なんだとね」
‐了‐