7 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/10/15(木) 00:31:21 ID:vDcoa3A6
7.
『Kさん、見てください! あのお菓子、秋限定の新発売が出たんですよ!』
『まーた、そんなもの買ったナリかぁ? メーカーに踊らされる消費者のお手本みたいナリね』
『えーでも、おいしそうじゃないですか? このパッケージとか可愛いし』
『Y君みたいなのがいれば、お菓子会社も苦労しないナリね……』
『そういうKさんはどうなんですか。いっつも同じアイスばっかりで、飽きたりしないんですか』
『ふふん、当職は純情だもんね。Y君みたいにほいほい浮気なんてせず、ひとつのお菓子を愛でるナリよ』
『そりゃ結構なことで……ん、うまい! これは当たりですよ!』
「……い、……」
『そ、そんなにおいしいナリか?』
『ええ! この系列だとこれが一番いけてるんじゃないかなぁ』
『Y君、当職にもひとつだけ、ひとつだけわけてくれないナリか?』
『嫌ですよ。自分は一筋なんでしょ。大体欲しかったら自分で買えばいいじゃないですか』
『あ、じゃあ、アイスひとくちあげるから、交換ナリよ』
「…お…い、…………」
『しかたないなあ、ひとつだけですよ』
『はいナリ。じゃあアイス、どうぞ』
『ありがとうございます』
『ん? これ本当においしいナリ』
『ああっ! Kさん食べ過ぎですよ、僕のぶんなくなるでしょうが!』
『男は細かいことにこだわるものじゃないナリよー』
『くそ、そっちがその気なら……』
『ああっ! アイス食べ過ぎナリ!』
『そっちが先に仕掛けてきたんでしょう? おあいこですよ』
『むむむ……』
「おーい、K」
飛び跳ねそうな勢いでKは目覚める。
「Y!?」
「おはよう。ずいぶんとぐっすり眠っていたよ。気持ちの良い朝だ」
男は爽やかに微笑む。
うつろな瞳のKは、宙を見つめて言う。
「夢……夢を見てたナリ」
「へえ、どんな?」
「当職とY君が楽しかったころの……」
「まがい物さ、そのころの僕らは」
Yが吐き捨てるように言う。
「あの頃の僕は、何度きみに「愛してる」などと口にしただろう。あれはすべてウソだ。僕ときみが演じていたのは世間一般で語られる、イメージ通りの幸せな恋人たち」
Yが事務所の本棚を蹴り飛ばす。ガン、という音と共に本棚が倒れる。
「あんなもの、真の愛情などと呼べやしない! 僕は、ホンモノを手に入れるんだ!」
叫びながらYは机を何度も殴りつける。手の皮がやぶれ、血がにじむ。
ぜいぜいと荒く呼吸を繰り返した後、YはKに微笑む。
「さて、起きて早速で申し訳ないんだけど、今日は万力を使おうと思っている」