4 - 名前が出りゅ!出りゅよ! (sage) 2015/10/15(木) 00:29:38 ID:vDcoa3A6
4.
全身を走る冷たい感触でKは目覚める。水を頭からかけられたらしい。
世界が逆転していることに戸惑ったが、それは自分が斜めの板に逆さ磔にされているからだと気づいた。
「おはよう、K。少し強引に起こさせてもらったよ」
「く、来るな! 来ないでくれナリ!!」
「おやおや、ダメじゃないか。挨拶は人間関係を円滑にする第一歩なのに、そんなこと言ってたら」
さて次はどうしようかなあ、とYは本をめくりながらつぶやく。
「も、もうやめて……」
「わからない人だなあ。やめないと言っただろう。……そうだ、次は水責めにしようか」
Kの喉からヒッという声が出る。
「ああ、別に逆さづりにして頭から水に沈めるとかしないから、大丈夫だよ。僕はね、沈めるタイプは美しくないと思う。やる側が激しく動くようなものは、僕は好まないんだ」
「いやナリ、いやナリィ!!」
「だからね、飲ませる。K、きみのたぷたぷなお腹を、もっともっと、たぷたぷにしてあげるよ」
Yが手に持ったビニールホースを見せる。
「た、助けて! 助けてくれナリィ!!」
「K、どうして今、きみが頭を下にされているか、わかるかな」
ホースを手に持ったYが言う。
「解説しておこうか。水を飲む速度を落とすためだ。今から僕は、あなたの口にこのホースを突っ込み、蛇口をひねる。水がドバドバ流れ込む。さて、どうなるでしょう」
「いやだぁ! パパ、助けて!!! パパァー!!」
「いい年して親頼みとは感心しないな。ま、それもKの好きなところだけど……さて、人間の胃は水を消化しない。膨れ上がった胃袋は、きみの臓器を圧迫する。
どうだい? 考えるだけで興奮してくるだろう? ……じゃあ、入れるよ」
グイとホースが口に突っ込まれ、妙な装置で固定される。塩化ビニルの香りがKの口いっぱいに広がっていく。
Yが事務所の奥へ行き、Kへ声をかける。
「準備はいいかい? 良くなくてもいくよ」
「やめ――」
水、水、水。大量に流れてくる。息ができない。
必死に飲む。飲む。飲む。
まだまだ流れてくる。鼻の呼吸も苦しくなってくる。
「これ、調節が難しいんだよな」
Yが奥でぼやくのがきこえる。
「うまい具合にやめないと、胃袋が破裂する可能性があるし。僕としてはTがその激痛にのたうち回るのもみたいんだけどね」
「がっ……ごっ……」
「苦しいかい? そうやって苦痛に耐える君は本当に美しいよ」
「ごっ……」
「儀式って最初に言っただろう? これはね、僕が君への愛情を確認し、更なる高みを目指すための儀式なのさ。
僕は幼いころから虫をいじめたかった。大きくなると小動物へと対象はうつった。今では人間へ。それは異常な性癖だと世間には白い眼を向けられる。
……でも、本当にそうなのかな? だってそこにはね、確かに愛が存在していたんだ。虫の足をもぎるのも、ノラネコの尻尾を切り取るのも、僕は悪意を持ってやる連中とはちがう。
僕はね、彼らを心から愛しながらそれをおこなったんだ。わかるかい?
僕は、《愛しているからこそ、そうせざるをえなかった》んだ。そして今、僕は君への感情を真の愛だけで埋め尽くしたい……そろそろかな」
ようやっと解放される。肺が狂ったように酸素を要求している。外れたままの股関節が、ちぎれた腱がひどく痛む。
近くにいるはずのYの声が、どこかひどく遠いところから聞こえてくるように思える。
「ねえT、今の君は僕が今まで見てきたどんな君よりも、美しい表情をしているよ」