台風一家 (8)

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1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/10/09(木) 21:20:41 ID:7BH/OhKo

今朝方、人々は違和感とともに目を覚ました。というのも、寝床が震えているのである。よくよく聞いてみれば、家が震えているのである。水の跳ねる音が、絶え間無く家を覆っているのである。
無数の水滴が屋根を打ち壁を叩き、小さな音の群れとなって、まくらに顔を埋める人々を威圧している。
今日は台風がくるのであった。人々は一様にため息を吐くと寝床を後にするのだ。そして着替え、歯を磨き、朝食をとり、一見いつも通りの生活をなぞりながら、しかし辺りに漂う不穏な空気を感じずにはいられなかった。
街を、人々が足早に去っていく。サラリーマンが、学生が、おじいちゃんおばあちゃんが。入れ違いすれ違い、何処か急かされるように道から道へと渡り歩いていく。職場へ、学校へ、駅のホームへ。まるで追い立てられる様に、何処か固い表情で歩いていく。
そうして送られていた擬似的な日常に、突如として生温い空気が吹き込んだ。
うなじを撫でていく風の気持ち悪さに、人々は弾かれたように目を向けた。遥か西の果てでとぐろを巻く暗雲。時折稲光が覗く厚い雲から、雷鳴とは違う振動が轟いているのだ。人々はしばらく耳を澄ませ、そして気づいた。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
それは男の唸り声であった。腑の底を震わせる深い振動。断続的に響くそれは、確かに肉体的には成人した男性の苦悶であった。
西の空からにじみ出る様に暗雲が広がっていく。近づいているのだ。苦悶の声を伴いながらねじれるそれは、見る見るうちに人々の視界を覆っていく。