55 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2015/05/03(日) 00:06:18 ID:aQvFnMtQ
「森さん、これはどういうことですか」
山内は目の前に広がる空き地をみながら、森に問う。
「いえ、そんな馬鹿な。こんなのはおかしい」
森はひどく狼狽しながら山内に答える。
「とりあえず落ち着いてください」
山内は森の方に目を転じ、じっとみつめながらゆっくりと言った。
「本当にこの場所が、昨日あなたと岩村さんが訪れたところなのですか」
「はい。そのはずです。確かに見覚えがある」
「ですが、あなたのいう屋敷はここにはないではないですか」
「ええ、それがおかしいのです。そんな馬鹿なことがあるわけない」
森は必死になって、確かに昨日この場所に岩村と二人で訪れ、そして岩村が屋敷に飲み込まれたことを説明した。
山内はさてどうしたものだろうかといった様子であたりを眺め回していた。
その時であった。森が小さく声をあげる。
「あっ。刑事さん、あれです。あの隙間です」
塀の一部にあいている隙間を指さしながら、森は山内に話しかける。
「昨日は今みたいに門扉が閉じていたので、あの隙間から中にはいったのです。
あの隙間はご覧のように小さい。人一人がやっとこ入れるくらいのものです。
ですから、あの隙間の周りを調べれば、通るときについた私や岩村の指紋がみつかるかもしれません」
それを聞いた森は、近くにいた警察官にその隙間を調べるように指示すると、森に言った。
「分かりました。調べてみましょう。ですがそれ以上は調べられません」
「というのはどういう意味ですか」
「この中に入って調べることはできないということです」
「えっ、そんななぜですか。あそこで岩村はいなくなったのですよ」
森は山内の言葉に驚きながら言う。
「はっきり言って、今私はあなたの発言を疑っております。屋敷がなくなるわけがない。
もし屋敷が実際にあったのならば、誘拐事件としてこの中に入って調べることもできたでしょう。
ところがですよ、あなたの言っている屋敷などどこにもない。あるのは隙間だけだ。
これで信じろというほうが難しい。ですから、これ以上捜査を続けることはできないのです。
それに、警察が不法侵入を犯すわけにはいきませんからな」
「それじゃあ私はどうすればいいんですか。それに岩村はどうなるんですか」
「私ども警察で捜査は独自に進めます。それにあたってあなたに話を聞くこともあるかもしれない」
山内は森を睨みながら話し続ける。
「そうですね森さん、あの隙間の鑑定結果がでたらまた教えましょう。それまでは勝手なことはしないでいただきたい」
森は絶望感と無力感に打ちひしがれていた。
岩村が消えたのは自分の責任であるし、その消えた場所は忽然と姿を消しているときている。
警察はどうやら自分のことを少なからず疑いの目で見ているようだ。
森にはもはや、できることなどなにもなかった。
(次号へ続く)